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最近、天候が不順なこともあるのであろうか。
鈴虫の鳴く声にも元気がなくなった。
私の住んでいる僻地でも近年都市化が進んで、土がむき出しになっているところが少なくなったせいか、モンシロチョウはおろか、モンキチョウを見かけることはほとんどなくなったのであるが、天候がよかったせいか、今年はよく目にした。
また、今年は赤トンボが大量発生していた。
あのギンヤンマでさえ、何度も見かけた。
自転車に乗っていると、少しホバリングしてから自分と併走するトンボをよく見かけた。

そうだ、こんな悠長な話なのではなかった。
鈴虫君と親戚だと思われるが、家に住む人間にとって忌み嫌われる存在、それは便所コオロギ君である。一般に"カマドウマ"と呼ばれる生き物だ。
彼は、鈴虫君と同じような姿をしているが、鳴かない。
鳴いているところを見たことがない。
突然現れて、そのへんを飛び跳ねる。
そこいらに彼の湧いて出る場所はない、閉鎖れた空間であるはずにも関わらず、彼は時折湧いて出くる。
私は、彼を素足で踏みつぶしたことがある。
"ギャー!" と、私は叫んだ。
当然のことではあるが、自分の意志で踏みつけたわけではなかった。
とてもではないが、そんなことはできない。
というか、私は彼が足下にいること自体、知らなかった。
居間に普段スリッパを脱いだままにしているのだが、真っ暗な部屋の中に私が来た気配を察知した彼が、ビックリしてその中に逃げ込んだのだ。
気づかずにスリッパを履いた私は、足の下で何かチョット堅い物が潰れる感覚がした。
叫び声を上げて、私は風呂場に飛び込んでから、急いで足を洗った。
とんでもない事故だった。
彼の霊は、今頃どうしているだろうか。
スリッパは当然廃棄された。

ゴキ君(ゴキブリ君)も非常にしびれる。
彼は動きが素早いので、しとめるのに苦労する。
だが、見ていると、彼はときどきじっと動かなくなることがある。
しかし、このとき動かないからといって、安心してティッシュペーパーで捕ろうとなどすると...
とんでもないことをするだ。
彼は自分にちょっかいを仕掛けてくる物の方向に、"ぶーん"とかいって飛びついてくるのだ。
彼は知っている。絶対に知っているのだ。
自分の存在そのものが、相手に驚異であることを。
とんでもないヤツだ。
しかし、殺虫剤とかでしとめるのも考え物だ。
部屋から一時的に待避しなければならないし、ゴキ君がどこでお亡くなりになっているかを確認できない。
経験的に、一番の方法はムースを使う方法である。
ムースは普通泡状で、押すと"プシューッ!"と飛び出してくる。
この飛び出しと、泡で彼を窒息死させる方法をとるのである。
どこでお亡くなりになっているかも一目瞭然だ。

なぜ、こんな話をしようと思ったのか。
そうなのである。
先日、お風呂の中で、例の便所コオロギ君を見つけた。
湯船に浸かっている私の前で、なぜか彼はいかにも"ここにいます!"とばかりに、ピョンピョンと飛び跳ねて見せた。
どうしてこんな日に、出てくるのであろう。
"なぜ出てくるっ!" 私は、激昂したアムロよろしく、そう思った。
殺生をしたくない日だったが、その辺で素足のまま踏みつけるわけには行かない。
それは、かつての経験を思い出させて、単に殺生をするよりもこたえる。
なによりも、心臓に悪い。
そうして彼は、ビームライフルの代わりに、シャワーの熱湯の中で溺死した。
熱湯をかけられて熱いのか、彼は初めピョンピョン飛び跳ねていたが、じきに熱湯に流されて、排水口の方に流れていって動かなくなった。
いつものことだが、閉じられた空間の中で、彼はどこから湧いてくるのであろうか。
そして何故、この時でなければならなかったのだろうか。
人の見ていないところで、出てきて飛び跳ねる分には、彼は自由であるはずなのに。
私の視界の中で、ピョンピョン飛び跳ねて見せた彼のせいではあるのだが、彼の無念さを祈らずに入られない気持ちになった。
便所コオロギ君、迷わずに成仏してくれ。
間違ってもユメになどに出てこないで欲しい...
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