サラウンドヘッドフォンが流行のようだ。
5.1chのスピーカーシステムに続く、AVシーンでの静かな人気。
大音響で聞ける環境にある人はごくわずかであろうから、これは当然の流れともいえる。
その昔のサラウンドといえば、やはり"スワン"を捨てては語れないであろう。
"スワン"は、故・長岡先生のお考えになられた音場再生中心のフルレンジ一発のスピーカーシステムである。
まだオーディオ界であまり音場という概念が未成熟な段階から、長岡先生はすでに音場中心という再生を実践されていた。
いつも音場中心というアプローチをとられているわけではなかったが、ソースによって音場を中心とするかその他を中心とするか、分けてお考えになっておられたようだ。
音場再生に向かないソースを使用して音場を広げようとしても、それはムリなことをよく理解しておられた。
音場中心で再生するには、マルチマイク録音よりも、ワンポイントマイク録音の方が向いていることを訴え続けたのも先生であった。
"スワン"はいろいろ取り上げあられるので、私も挑戦しようと思ったが、結構大きなスピーカーとなるので、結局断念して今日に至っている。
別に長岡先生があおったわけではないが、そのあとに出現したのが、バイノーラル録音ブームという物だ。
人の頭と耳の形をまねた状態でステレオ録音すると、臨場感がとんでもなくよくなるというものだった。
どこがはじめたかは、全く覚えていない。
各社でマネっこコピーを出していたような気がするが、どこの会社でも通常は人の頭を形取ったダミーヘッドというものにマイクをつけたりしていた。
おぼろげな記憶だが、そのなかでゼンハイザーという会社は、人の頭をそのままダミーヘッドとして使用するヘッドフォン型バイノーラルマイクを出していたような気がする。
通常ヘッドフォンがついている部分に、相当大きな箱形の無骨なヘッドフォンマイクがついていたような覚えがある。
当時お金がなかったので、自分の耳にマイクを当てて録音してみたのであるが、バイノーラル録音すると、通常のマイク録音よりも周波数特性が悪くなったように感じられ、バイノーラル録音には普通よりも高性能なマイクを必要とするという結果だったことを覚えている。
ワンポイントマイクには、通常よりも周波数特性の優れているマイクが必要なのと似ている。
これらには共通して、よりキレのよいマイクを必要とするようだった。
その後に音場再生シーンに登場したのは、NHKの音響システムだった。
その名を"スペースサイザー360"という。
そのまんまの名前ではないか。
もっとセンスのあるネーミングはないのかと、当時も思ったものだった。
バイノーラル録音されたものが、ヘッドフォン再生でないとほとんど効果がないのに対して、"スペースサイザー360"で録音されたものは、再生時にスピーカー再生してもある程度音場感が出るというのが、当時のうたい文句だった。
今の2スピーカーサラウンド再生システムほどではないが、ある程度これは本当だった。
しかし100%の効果を出すのは、やはりヘッドフォン再生したときだった。
当時大ヒットしていた"宇宙戦艦ヤマト"がFMドラマ化されて、この"スペースサイザー360"を通して放送されたことがあって、私はこの冒頭の主砲発射シーンだけを録音したものを、オープニングシリーズとして保存していたことがある。
「スペースドラマシリーズ ・・・ 宇宙戦艦ヤマト ・・・ ドカーン」という、たったこれだけのオープニングであった。
私のウッカリのおかげで、このカセットは永遠に消えてしまった(とっておけばよかった)。
本編は、これまた当時大ヒットしていたバンゲリスのサウンドがことあるたびに流れるというもので、これが流れるたびに"スペースサイザー360"で頭の中を音がグルグルといったもので、いくらバンゲリスでもこれではなあというものだった。
という程度のものであるから、そのドラマの内容は推し量っていただきたい。
アニメから連想すると、とんでもないスカシを喰らうという程度のものだ。
私の好きな吉田理保子さんと古谷徹さんがでていた別のドラマも放送されたが、どんなものだったか全然覚えていない。こっちは、"宇宙戦艦ヤマト"よりもひどかった。
"スペースサイザー360"がもっとも活躍したのは、おそらく富田勲先生の各アルバムをFM放送したときであろう。
今でもこのとき放送された"月の光"と"展覧会の絵"をもっている。
一応"惑星"くらいまではついていけるのだが(でも、あの発射時の管制センターとの会話は今でも大嫌いだ)、"宇宙幻想"・"バーミューダトライアングル"・"火の鳥"・"ダフニスとクロエ"あたりになるとついていけない。
実は、私もアナログ赤外線のサラウンドヘッドフォンをもっている。
最近は低価格でもデジタルのサラウンドヘッドフォンがでていて、平常ノイズなどが驚くほど低いようだが、今のアナログ式が壊れるまで待つしかない。
デジタル式を手に入れられるのは、何年後だろうか。
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