相対論に於ける流体< 目次へ >
この章では一般相対性理論に於けるアインシュタインの重力場の方程式の右辺にに出てくるこエネルギー運動量テンソルについて述べる。重力場の方程式は Rμν− R=−κTμν
1.流 体
物質は温度によって固体、液体、気体の三つの状態がある。液体と気体は流動性を持つ点からすればよく似ており総称して流体と呼ぶ。たいていの固体は十分に高い圧力下では流れるようになるので一般相対論的天体物理学に於いては、重力源は完全流体としてよい。完全流体とは運動している時でも、内部の面に圧力しか作用しない流体のことである。流体はきわめて多数の粒子の集合体であって、各粒子の運動を調べる事は不可能である。そのため単位体積あたりの粒子数、エネルギー密度、運動量密度、圧力、温度といった量の平均量によってその集合体の状態を記述するしかない。
2.重 力 場 の 源
ニュートン理論では重力場の源は質量密度だけであった。アインシュタインは、質量密度(=エネルギー)だけでなく、ストレス(=圧力)、運動量も重力場の源となり、空間を曲げる原因となる事を相対性理論に於いて示した。質量密度、ストレス、運動量をまと
めてテンソルにしたのがストレスーエネルギーテンソルである。普通の状況では質量密度 >> ストレスであるが、非常に高密度の物質(中性子星)や非常な高温のため粒子が光速に近い速度で運動している物質(相対論的ガス)では質量密度 ストレスとなる。
3.ダ ス ト
最も単純な流体、ダストを相対論的に取り扱う。ダストとはある一つのローレンツ系で制止している粒子の集合の事である。
(1) 粒子数密度
粒子数密度とは単位体積あたりの粒子数の事である。粒子の静止系(MCR系=系)では単純に粒子の数(=n)であるが、粒子の静止していない系Sでは粒子数密度はnではない。粒子数はMCR系も系Sも同じであるが、系Sではローレンツ収縮により粒子の運動方向の長さが 倍だけ短くなるので粒子数密度はn/ となる。
粒子数密度=n/ (2) 流 束
ある面を横切る粒子の流束とは、単位時間あたりその面の単位面積を横切る粒子数のことである。粒子の静止系では、全ての粒子が静止しているのだから流束はゼロである。系Sで全ての粒子がX方向に速度Vで運動しているとすると、X=一定の面を横切る流束は 流束=粒子数密度 x V=nV/ 速度VがX方向でなく、VのX方向の成分がVxなら、X=一定の面を横切る流束は 流束=nVx/ となる。 (3) 四元流束
粒子数密度、流束の説明より四元流束 を次の様に定義出来る。(四元運動量を定義した時と同じ要領)
=n ( 静止系に於ける粒子数 x 四元速度 ) 4.ダストのストレスーエネルギーテンソル
3. でダストの個数について調べたがダストはエネルギーも運動量ももつ。ストレス(=圧力)はない。(ある一つのローレンツ系で制止している為)
(1) エネルギー密度、運動量密度
MCR系では、各粒子のエネルギーはm(=静止質量)で、単位体積あたりの個数はnであったから、単位体積あたりのエネルギー(=エネルギー密度)はmnである。これを一般に ρ で表す。 ρ = mn ( この式は一般の流体の場合には平均的な静止系をとっても成り立たない。 ) (2) ストレスーエネルギーテンソル
ストレスーエネルギーテンソルを定義するのに最も便利なのは、ある任意の系での成分を使うことである。
T( , ) = Tμν = Xν一定の面を横切るμ運動量流速 ・ T00=エネルギー密度 t=一定の面を横切る0運動量(=エネルギー)の流束 xj=一定の面を横切るエネルギー流束 t=一定の面を横切るi運動量流束 i運動量のj流束 (1)及び以上のことより次の事が得られる。 ダスト:T = = mn = ρ = ρUαUβ =ρUαUβ Tの成分は Tμν = T( , ) = ρUαUβ ( , ) = ρUαUβ (一形式の基底を参照) =ρUμUν T00 = ρ で他の成分は全て0である。 5.一 般 の 流 体
ダストは粒子の集合としては一番簡単な場合であった。 一般の流体では、@流体の全体の運動のほかに、各粒子がランダムな運動をしている。A粒子間のさまざまな力があって、それはポテンシャルエネルギーの形で入っている。の二つの条件がは入ってくる。
(1) ストレスーエネルギーテンソル
4. (2)に於ける式は(=下記の式)完全に一般的なものである。 T( , ) = Tμν = Xν一定の面を横切るμ運動量流速 従ってMCR系では ・ T0j=エネルギー流速。運動はないが、エネルギーは熱伝導輸送され得る。 (j=1〜 3) ・ Ti0=運動量密度。粒子はやはり運動量をもたないが、熱が伝わるとエネルギーは運動量を運ぶ。 Ti0=T0iとなる。 (i=1〜 3) ・ Tij=運動量流束。これをストレスという。(=圧力、応力) 【Tの空間成分Tij】
Tijはj面を横切るi運動量流束である。今MCR系を考えているので、流体要素の全体的な運動はないがストレスはある。
【MCR系でのTαβの対称性】 流体の内部に一つの面ζを考え、このζで流体を二つの部分AとBに分ける(下の図参照)。 一般にはAとBは相互に力を及ぼしあっている。Tijはこの力(=ストレス)の事である。力が面に垂直ならばTijはi≠jの時はゼロになる。 ・ T0i と Ti0
T0iはエネルギー流速で、Ti0は運動量密度である。
エネルギー流速=エネルギー密度xその流れの速度であるが、エネルギーと質量は同じであるからエネルギー流速=質量密度xその流れの速度でもある。右辺は運動量密度なので、従ってT0i=Ti0となる。
・ Tij と Tji
下の図に於いてT21とT12を考える。T21はt軸の回りにY方向に回転させる力となり、T12はt軸の回りにX方向に回転させる力となる。しかし流体は回転していないのでT21=T12である。よって一般に Tij = Tji となる。
(2) エネルギー運動量の保存
Tは流体のもつエネルギーと運動量を表しているから、エネルギーや運動量が保存されるという条件を満たさなければならない。この条件はTの発散が0という事である。
下記の図で流体中の流体要素を微小な直方体で示した。エネルギーは全ての面を通して流れる。X面を横切る流れの割合は ーT0x dydz = ーT0x,x dxdydz となる。( ーT0x,x については下記の微分の記法を参照 )
エネルギーが流出するのであるから値は負である。同様にY面を横切る流れの割合は ーT0y dxdz = ーT0y,y dxdydz
Z面を横切る流れの割合は ーT0z dxdy = ーT0z,z dxdydz となる。これらの割合の総和が内部のエネルギーの増加の割合 = T0t,t dxdydz である。従って T0t,t + T0x,x + T0y,y + T0z,z = 0 −−−> T0α,α = 0 ( α=0〜 3 ) 下記の図の中で、第一等号の右辺の第一項は微分の定義 より導かれる。 同様な方法で運動量保存の法則 Tiα,α = 0 も成り立つ。 ( i=1〜 3 ) 一般的な保存則はTαβ,β = 0となる。 この式は特殊相対論では全ての物質に適用出来る。これはテンソルの四次元発散である。
・ 微分を表す記法を次の様に定める。
∂Φ/∂X=Φ,x ∂Φ/∂Xα=Φ,α ∂Xα/∂Xβ=Xα,β (3) 粒子数の保存
流体が運動している時に全粒子数が変化しない事もあり得る。この保存則は(2)と同じ様に導かれる。即ち
Nα,α = (nUα),α = 0 ( = n ) 6.完 全 流 体
相対論での完全流体とはMCR系で粘性も、熱伝導もない流体の事である。これはダストについで扱うのがやさしい流体である。そのストレスーエネルギーテンソルは非常に簡単なものとなる。
・ 熱伝導がない事
エネルギーは粒子の流れに伴ってのみ流れるから、MCR系では T0i = Ti0 = 0 である。
・ 粘性がない事
粘性の定義より、その力がないという事は力は常に境界面に垂直である。即ち i ≠ j なら Tij はゼロである。面XはX方向の力のみを及ぼしあい、面YとZについても同様である。これらの力は特別な条件はないので等しく、単位面積あたりの力は圧力Pと呼ばれる。
以上の事から完全流体のMCR系でのストレスーエネルギーテンソル T は下記のようになる。上の式を一般座標へ変換すれば、一般相対性理論でも用いる事の出来る完全流体のストレスーエネルギーテンソルが得られる。系に依存しない形式は次のようになる。 Tαβ = (ρ+P)UαUβ+Pgαβ 【証明】
MCR系( =T )
から一般の座標系( =Tαβ )へのローレンツ変換を行う。即ち
MCR系での の成分 (1,0,0,0) とgαβとしてηαβを上の式に代入すると、MCR系でのストレスーエネルギーテンソル
T が求まる。
Tαβ = T ≠ なら T = 0 だから Tαβ = ρ + P ・・・・・ (1) gαβ= η , η =−1 , η =δ だから (δはクロネッカーのデルタ) gαβ=ー + ・・・・・ (2) (1)−(2)xPを計算すると TαβーPgαβ = (ρ+P) = = Uα , = = Uβ だから 故に Tαβ = (ρ+P)UαUβ+Pgαβ 7.ガウスの発散の定理
三次元のベクトル解析でガウスの発散の定理という定理がある。この定理が四次元の場合にも成り立つ事を示す。ガウスの発散の定理は次の様なものである。
= −−−−−> = ・・・・・・ (1) 左辺はベクトル場の発散の体積積分で、右辺はベクトルと単位垂直一形式の内積の表面積分である。式の意味は、ベクトル場の発散の体積積分と表面積分は等しい。又はベクトル場の発散の体積積分を表面積分に直す事である。ベクトル場の発散とはベクトル場の単位体積の変化の割合でスカラーな量で、次の様な量である。 div A=∂At/∂t+∂Ax/∂X+∂Ay/∂Y+∂Az/∂Z (1)の左辺は ∫ (∂At/∂t+∂Ax/∂X+∂A y/∂Y+∂Az/∂Z)dV (1)の右辺の意味を示す為にt面に於ける表面積分を描いた。 ∫ (At(t2)ーAt(t1))dxdydz ・・・・・・ (2) = , だから = となる。この式を(2)に代入すると(2)は ∫ (∂At/∂t)dtdxdydz =∫ (∂At/∂t)dV 同様にX面に於ける表面積分は ∫ (∂Ax/∂X)dV , Y面に於ける表面積分は ∫ (∂Ay/∂Y)dV Z面に於ける表面積分は ∫ (∂AZ/∂Z)dV よって(1)の右辺は ∫ (∂At/∂t+∂Ax/∂X+∂A y/∂Y+∂Az/∂Z)dV これは(1)の左辺と全く同じである。 ∴ ガウスの発散の定理は四次元の場合にも成り立つ。
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