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FabulousMP3には、イヤホンやヘッドホンで聞いていても、まるで部屋に置いたスピーカーで聞いているような「バーチャル・ルーム」機能を搭載しています。部屋のスピーカーから左右の耳に届く時間差や周波数特性をシミュレートし、イヤホンやヘッドホンの外から音が聞こえているような臨場感を作ります。頭の中や耳元でチリチリ鳴る音を、拡がるのある心地よい音に変えます。部屋の広さや残響の量を、お好みに変えることも出来ます。バーチャルサラウンドヘッドホン機能を実現します。
ヘッドホンで通常のCDを聞くと、右の音は右の耳元、左の音は左の耳元、中央のボーカルは頭の中心にあるように聞こえ、音の方向感は感じられません。これは「頭内定位」と言い、ヘッドホンで聴く場合の独特の現象です。確かに音は明瞭に聞こえますが、頭の中で音がする感覚は普段の自然界で聞くことはないため、人間がストレスとして感じる1つの要因でもあります。
ヘッドホン使用時でも、スピーカーからの音を聞いているように出来れば、より心地よい音楽鑑賞が出来るのではないでしょうか?
部屋にスピーカーを置いた場合は、目の前にあるスピーカーから左右の耳に届く音の時間差や、音色の差を脳が経験的に判断して、スピーカーの位置を特定していると言われています。音源から耳に届く音の特性(「伝達特性」と言う)を再現してヘッドホンで再生すれば、あたかも前方から音が聞こえるように感じるのではないかと考えられています。これを一般に、「頭外定位」と呼んでいます。
そこで、原始的な伝達特性の再現方法として、ダミーヘッドと言う耳の形状と外耳道を付けた人間の上半身模型を作り、耳の鼓膜の位置にマイクを設置し、前方に配置した音源を再生して録音する方法があります。マイクで捉えた音をヘッドホンで聴くと、実際に音源から耳までを経た音を聞くことになり、前方から音が聞こえる、「頭外定位」が得られることが分かっています。
これをデジタル信号処理で再現する方法として、伝達特性の「畳み込み演算」(Convolution)と言う手法があります。音源から鼓膜までの伝達特性「インパルス応答」を計測し、これをデジタル信号処理プロセッサやパソコンのCPUで畳み込み演算します。インパルス応答を計測する方法には、火花などのインパルス性の高い音源を使って、応答を直接収録する方法、M系列ノイズを音源として、これの相互相関を使用してインパルス応答を計測する方法などがありますが、どれも計測時の機器(火花発生器や再生スピーカー)等の特性の影響を強く受けてしまうため、正しい伝達特性の計測は難しいと言われています。
しかしながら、ダミーヘッドや、伝達特性の畳み込み演算にによって音源から耳までの伝達特性を再現しても、左右の伝達特性の差が大きい横方向の音は、ヘッドホンでも良好な定位感を再現できますが、左右の伝達特性の差が小さい前方や後方、頭上からの音をヘッドホンで聞き分けるのは難しいことが、実験によって分かっています。
これは、人間が音の方向を判断する要因は、左右の耳への音の差だけでなく、目で音源の位置を確認して聞こえる音の位置を特定したり、音源の方向に頭を動かすことによる音の変化によって、音の状況を総合的に判断するためです。ヘッドホンからの音は、頭を動かしても常に一定であるため、音源の位置の特定は難しいことになります。
頭外定位効果を製品化した技術の中で、最も進んだモノの1つがSONYのサラウンドプロセッサ技術です。WEBサイトにあるデモを試してみて下さい。SONYの頭外定位の効果は素晴らしいモノがありますが、SONYの技術もFabulousMP3のバーチャルルームも、斜め横方向の音の再現性は高いですが、前方の音の再現性は、リスナーやヘッドホンの形状、音源などへの依存性が高く、常に良好な前方定位感を得るのは難しいことが分かります。
ダミーヘッドによるインパルス応答を収録して、これを畳み込み演算処理で再現する手法もありますが、正確なインパルス応答を計測することが難しいことや、たとえ正確に計測できたとしても、それはあくまでダミーヘッドの特性であるため、各個人の耳への特性とは異なります。また、HiFiオーディオの視点からは、畳み込み演算による音質は、インパルス応答の品質に依存してしまうため、正確でないインパルス応答の畳み込みは、音を悪くしてしまう要因があります。また、外耳道を通過する際に起こる共振により、周波数特性や位相特性に、音を悪くしてしまうディップ(急激な周波数特性のくぼみ)が出来てしまうことが知られています。
そこで、FabulousMP3のバーチャル・ルーム機能は、左右の耳の伝達特性の差をあくまで「擬似的」にシミュレートしています。計算負荷の高い畳み込み行っても、所詮前方への良好な定位感が得られないならば、演算負荷の高い畳み込みの手法は取り入れず、Windowsマシンでのリアルタイム処理に耐える計算負荷の低いIIRフィルタや、単純遅延ラインを組み合わせることで実現しています。
また、音の遠近感を再現する要因の1つは「残響」(Reverberation)です。適度な残響を加えることで、音があたかもそこにあるような「実在感」を与え、空間の中で音源が鳴っているような錯覚を与えます。残響を加えない時よりも、音源が遠くにあるように感じる様になります。
FabulousMP3では、一般的な残響発生方法である遅延ラインを用いたエコーを組みあせて生成しています。あくまで、部屋の空間の実在感を出すだけの目的であるため、長い残響は必要がなく、長くても200msくらいの残響で十分です。遅延ラインによるフィードバックエコーは、コムフィルタ(くし型特性)となってしまい、キーンと言う音色を発生させてしまい、これを軽減するためには、複数のディレイラインを組み合わせる必要があるため、積極的には使用せず、周波数特性に影響を与えないオールパスフィルタを使用しています。残響は音源から2系統生成して、これに前方と横方向の伝達特性を付けて、ミックスしています。イメージとしては、音源の周りを包むような残響を生成しているつもりです。
バーチャル・ルーム機能をONにして変換したMP3ファイルを、通勤時の電車でiPodで繰り返し聞いていますが、やはり、明確な前方スピーカーの位置を感じることは難しいですが、残響成分が収録されていないドライな音源では、前方の音源の位置が感じられるような場合もあります。
音楽を聴き始めてから数分経って、ヘッドホンの音に慣れてくると、音がどの当たりから聞こえるのかをイメージ出来るようになります。私の経験では、少し時間が掛かります。確かに頭の外から音が聞こえる「頭外定位」は確実に感じることはできますが、ボーカルなどの方向はやはり曖昧で、上の方から聞こえたり、何となく頭の外から聞こえたりといった感じです。目を閉じて前方でお気に入りのミュージシャンが歌っている光景を想像できるようになると、それが音の方向感につながるかも知れません。ミュージシャンが目の前に居ると信じて、聞いてみて下さい。
この効果はヘッドホンでの音楽鑑賞のストレスを取り除き、疲れにくくするのには効果があるのではないかと思います。少なくとも、CDの音源をそのままヘッドホンで聴いているときは、左右の耳に分離して音が聞こえていますので、現実の環境音ではあり得ない聞こえ方です。ヘッドホンを外した時の環境音との差も大きいため、耳に対する負担が大きくなるのではないでしょうか?
バーチャル・ルーム機能を使用すると、少なくともヘッドホンの外から音が聞こえており、現実の環境音に近い聞こえ方であると思います。その面では、ストレスを軽減できるのではないかと思います。ですが、あまり、音量を上げすぎないことが肝心ですが...。