只今工事中デス

製鉄所 · 製鋼所 · 鉄工所 ……

世の中には鉄鋼材料を使った工業製品を製造する会社が多く存在し、‘鉄‘の字を冠した社名をよく見かけます。ただし‘鉄‘という字の使われ方によってニュアンスは違ってきますので、ちょっとその辺りを整理しておきましょう。

まずは「○○製鉄所」という社名の‘鉄‘は銑鉄が鉄鋼業の出発点であるコトを表し、鉄鉱石 (酸化鉄) から鉄を取出して銑鉄を製造 (製銑) する会社、というニュアンスになります。ただし現在では、製銑ばかりではなく、製鋼まで一貫して行う企業が多く、製鉄所=製銑所+製鋼所という意味合いになっています。製鉄所は大きな敷地を要し、原料の運搬にも便利でなければなりません。日本は鉄鉱石などを輸入に頼っているため、海運の利を求めて製鉄所は海沿いに造られます。海沿いであれば冷却に必要な水を得やすいという利点もあります。

次に「○○製鋼所」です。銑鉄を精錬して製鋼を行う会社、と説明するのが妥当でしょう。銑鉄は製鉄所から購入しますので、結果的に製鉄所の近くに造られることが多いようです。ただし前述のように製鉄所が銑鋼一貫生産を行っているので、製鋼所は製鉄所で作られることのない特殊鋼や、特殊形状鋼の生産を行うことになります。“○○製鋼”という社名以外にも“○○特殊鋼”などと、‘特殊鋼‘生産を社名に謳っている場合もあります。

「○○鉄工所」となると、製鉄所や製鋼所に比べ桁違いに身近な会社となります。鉄鋼材料で工作する会社、という意味合いでしょうか。近所に鉄工所があるという人も多いことでしょう。工作機械で機械部品を製造する会社、溶接で製缶業を営む会社、プレス機で量産部品を作る会社、コイルバネを作ったり、金型を作ったり、歯車を作ったりと、製造品目は多岐に渡りますが、いずれも主に鉄鋼材料を取扱うことが共通点です。町工場から大企業に至るまで鉄工所と名のつく会社は沢山あります。

このページでは主に「製鉄所」で行う‘製銑‘と‘製鋼‘について大まかな流れを見て行きます。つまり製鉄所の中では何が行われているのか、を理解することになるのですが、文字で示されると「ふーん、ナルホド」で済んでしまいがちです。製鉄業はとにかく大規模で、工場がデカければ設備もデカく、製鉄所内には迫力満点のシーンが数多く存在します。近くの製鉄所で工場見学ができるなら、ぜひ実物を見に行って下さい。

ちなみに‘鉄‘の字を含む会社名を宛名などとして記入する際、‘鉄‘は「金を失う」と書くため縁起が悪く、特に相手先の社名として筆記する場合は「金の矢」で表記するのがちょっとしたビジネスマナーです。ワープロ打ちなら仕方ありませんが、手書きで宛名を書く場合だけでも気を付けておいてソンはないでしょう。会社の看板で「金の矢」を使っている会社さんも沢山あります。もちろん誤字なので、学生さんは書取りテストで‘鉄‘と正しく書いて下さいね。‘鐡‘や‘鐵‘など、ムツカシい漢字を使うケースもよく見掛けます。

高炉製銑

酸化鉄を含む鉄鉱石を還元して鉄を取出す第一歩は、溶鉱炉による製銑から始まります。簡単に言うと高温加熱した状態でコークスの炭素により酸化鉄から酸素を除き、炭素量の多い鉄を得る工程となります。現在の溶鉱炉は高炉と呼ばれるタイプのものが主流で、その名の通り背の高い溶鉱炉です。高炉は一旦稼動し始めると、廃炉までずっと停止することなく銑鉄を製造し続けます。製鉄所にとって高炉の火を止めるというのは大変に重要度の高い意思決定事項で、炉の寿命を迎える前にストップさせるのは余程のコトです。過去には大規模な不景気で、泣く泣く高炉操業を停止したケースもあります。このように高炉製銑は連続操業を要するので、製鉄所は24時間365日稼動しています。

乱暴な言い方をすると高炉は底の抜けかけた筒です。筒の中に鉄鉱石とコークス、石灰石を順に投入し、層状になった原料は下から加熱されながら沈んで行きます(現在はコークスと石灰石を事前処理で定量配合したものを使うようです)。コークスの炭素によって酸化鉄は還元され、石灰が不純物と結びつき、溶解して炭素量の多い鉄 (溶銑:溶けた銑鉄) が筒の中を流れ落ちて行きます。溶銑が一定量溜まると高炉の底から流し出して次工程に進みます。

高炉の底は2000℃もの温度になり、この高温によって酸化鉄は還元されます。コークスは還元剤としての炭素源であると同時に熱源でもあり、炭素は酸素と結びついて一酸化炭素を多く含むガスを発生させます。これが高炉を登って行って、投入された原料が順次加熱される仕組みになっています。一酸化炭素は可燃性のガスであり、高炉から出たガスは炉外で酸素によって再燃焼され、そのとき発生する熱は蓄熱室に蓄えられます。蓄熱室を通ったガスはまだそれなりの熱量を持っているため、発電や暖房、温水などに利用され最終的には大気に放出されます。蓄熱室は複数機あり、熱を蓄え終わったらその熱を逆に高炉の羽口から供給することで、炉内を高温に保ちます。このように高炉は熱をムダなく使うよう工夫されています。

高炉から取出された溶銑は、一部が鋳鉄地金として鋳込まれる他は、トーピードカーに乗って次工程の転炉に運ばれます。後述する銑鋼一貫生産が一般化する以前は銑鉄の状態で一旦鋳造され、製鋼工程で精錬前に再度溶解させていたので、溶融状態のまま精錬に移る現在のやり方は、その分省エネ作業になっています。高炉底部からは溶銑以外にも不純物が石灰によって銑鉄から分離されたスラグが取出されます。スラグは比重が軽く、溶銑に浮いているので、取出口は溶銑と違いますが羽口よりは下にあります。スラグは高炉材料として使用されるそうで、なんとも無駄のない操業であることに感心しますね。

転炉での製鋼

銑鉄は炭素が多く、これを鋼とするには炭素を除いてやらなければなりません。銑鉄から鋼を得るためには精錬と言って、溶銑に酸素ガスを吹付けることで炭素の除去を行うための製鋼炉が必要です。精錬で炭素量の減った溶鋼は、吹付けられたガスによって酸素を含むようになります。これを取鍋(とりべ) に移し、脱酸剤を添加して酸素を減らします。酸素を入れたり出したりとヤヤコシイですが、精鋼とは「できるだけ純度の高い (炭素量の少ない) 鉄を得る操作」だと考えて下さい。合金鋼を作る場合は、ここで合金添加します。溶鋼の準備ができたら、鋳込んでインゴットができ上がります。この時、製品となるインゴットとは別に、小さな鋼塊を鋳込んで成分検査をします。取鍋試験と言って、このときの試験結果がミルシートに記載されます。

溶鉱炉で酸化鉄から酸素を除き、それを溶鉱炉の酸素精錬によって、製銑時に溶込んだ炭素を除き、さらに取鍋で脱酸材を投入することで洗練時の酸素を除く、というなんとも面倒な工程を連続的に行っているのが現在の銑鋼一貫生産です。途中で型銑として凝固させることなく、溶けた状態のまま板材などの製品にしてしまうので、究極の製造方法でしょう。銑鋼一貫生産では製鋼炉として転炉を使用します。炉体を傾けることができるため溶鋼の出し入れを次から次に行うことができ、現在では製鋼炉の主流です。

“鋼とは鉄と炭素との合金である”という定義からすると、酸素やそれ以外の不純物をできるだけ取除こうとする工程は理解できますが、合金元素として謳われる炭素であってもできるだけ少なくするのが (普通鋼における) 製鋼だということが解ります。つまり製鋼は大量生産できる工程の中で、限りなく純鉄に近い鉄を生産する方法と言ってもいいでしょう。実際に最も生産量の多いSS材では、炭素量が0.2%程度で低炭素鋼と呼ばれる部類のものではありますが、それにしても1%にすら満たない量であり、99%が鉄であるものを鋼と呼ぶところが“炭素を合金元素とする”という文言に違和感を覚える部分ではあります。でもそんな少ない量であっても鋼としての性質に大きく影響するのが炭素であって、それくらい鋼にとって炭素は重要な元素であるということです。炭素量が0.1%も違えば、鋼の機械的性質はガラリと変化するという事実はS-C材の炭素量による区分が0.02〜0.03%刻みになっていることからも読取れます。

鉄を買って鋼を売る

先述の通り、鋼の出発点は銑鉄です。銑鉄を精錬して炭素量を調整し、脱酸して鋼になります。つまり製鋼所は銑鉄を仕入れて鋼とし、それを販売することを主な業務としています。実際の製品になるには更に加工業者の手を経て、熱処理や表面処理、塗装などの工程を進んだ後、組立てられてリリースされます。鉄鋼製品はこのようにたくさんの人の手を通過して手元に届くのです。

製鋼所は工具鋼などの特殊鋼を生産する事業所です。つまり普通鋼よりも高付加価値の鋼を生産することで利益を得ている、ということになります。実際に価格の違いを調べてみると、SCM435などの機械構造用合金鋼では、普通鋼であるSS材に比べて5割増し以上となっています。SKなどの炭素工具鋼やSUJでは2倍以上、合金工具鋼であるSKSでは3倍以上にもなります。更にSKDともなるとSS材の5倍、SKHは10倍以上です (価格調査結果は経済状況などにより変動します)。それぞれの鋼材がどのような機能を持っているかについては別頁に譲りますが、高機能ゆえに高付加価値となり、それが販売価格に反映されている様子が窺えます。

ただし流通量で言うと、特殊鋼の場合は非常に微々たるものです。普通鋼 (あるいは普通鋼に手を加えたメッキ鋼板などの鉄鋼材料) は身の回りに多く存在し、その使用量も莫大であることは容易に想像できるでしょう。タンカーを一隻作るのに必要なSM材は、船の大きさに比例して多くなるワケですが、そのタンカーのプロペラシャフトを切削するバイトで使用する工具鋼は、刃先にほんの少し必要であるに過ぎません。同じ鋼でありながら、特殊鋼のマーケットは普通鋼に比べてかなり小さく、だからこそ‘特殊’であるとも言えるような気がします。一方で単価は前述のように段違いで、同じ鋼でも価格にかなりの差があります。

だからこそ、このような特殊鋼を取扱う技術者は、鋼材の性質やそれを発揮させるための熱処理に関する知識を身に着ける必要があるのです。せっかくお高い材料を使うのですから、失敗なく製品化する義務があるワケですし、もし何らかのトラブルがあっても次善策を持てるようになれば、リカバリに要する時間や労力も小さく抑えることが可能となります。特殊鋼を扱うあなたが失敗を繰返すというコトは、製鋼所からすればトラブルばかりでジャンジャン買ってくれるお得意様ということにもなり兼ねませんが、材料を作っている側の心理からすると、できれば失敗することなく最短ルートで図面の意図する性能を発揮して、世の中に喜ばれる製品になって欲しい、ムダに使ってもらっても売上は伸びるかも知れないけどそんなのは本意ではない、と思っているのですから、図面の材料欄に何を記入するか、熱処理や表面処理をどうするのか、備考欄にどんな注意点を盛込んで図面化するのかという判断は、非常に責任の重い行為であるということを自覚して下さい。図面がしっかりしたものであれば、何らつまづくことなくチャンとした製品が出来上がるのです。世の技術者の皆様、頑張って下さい。

銑鋼一貫工程と連続鋳造法

製銑と製鋼を分ける工程では、精錬前に再加熱して溶解しなければならず不経済です。そのため溶銑をそのまま転炉に移し、すぐさま精錬を行うようにした銑鋼一貫作業が現在の主流です。高炉が連続操業であれば、それに続く製鋼工程も滞りなく稼働することが求められ「連続して採銑できるのなら連続して造塊できるまでにしよう」という発想で行われているのが連続鋳造です。

連続鋳造法では底の抜けた鋳型に溶鋼を流し込んで造塊します。出来上がった鋼塊はそのまま圧延工程に送られ、次から次へと鉄鋼製品を生産しています。

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