鉄鋼熱処理用語集
熱処理分野特有の用語以外にも熱処理加工現場でよく耳にするもの、熱処理加工上少なからず関連する機械用語なども掲載します。
特に断りのない場合は“鉄鋼材料の”熱処理用語となります。非鉄金属等に該当する用語については解説内でその旨を表記しています。
内容の不備や不適切な表現など、御指摘がありましたらお知らせ下さい。
- アイゾット衝撃試験
- 衝撃試験の一種。切欠きのある試験片の一端を固定し、他端をハンマリングして衝撃値を測定する。ISOとの整合のため、現在JISからは削除されている。
→シャルピー衝撃試験
- 亜共析鋼
- 炭素量約0.77%以下の鋼。オーステナイト状態からゆっくりと冷却するとA3線を越える温度で初析フェライトを生じ、残部は徐々に炭素含有率が上昇して、共析組成になった状態でA1点を越える際に共析変態によってパーライトを生じる。
→共析鋼
→過共析鋼
- 亜時効
- →アンダーエージング
- アセチレン
- C2H2。無色の可燃性ガスで完全燃焼した酸素-アセチレン炎は3000℃を超え、工場内の手軽な加熱方法としてよく使われる。溶接や溶断で使われる他、熱処理現場では真空浸炭の炭素源としても利用されている。
- 圧延
- 回転するローラー間に鋼などの金属材料を通過させて板、帯、レールなど、同一断面形状に成形すること。
→熱間圧延
→冷間圧延
- 圧縮残留応力
- お互いに押合う状態の残留応力。表面に圧縮残留応力を与えられた製品は耐疲労性が向上する。
→引張残留応力
- アトマイズ法
- 溶融金属に高圧ガスを吹付けることで金属粉末 (粉末冶金の材料となる) を得る方法。
- 油焼入れ
- 冷却剤に油を用いる焼入れ。水焼入れ、水溶液焼入れに次ぐ冷却速度が得られ、工業分野では一般的な焼入れ方法。
- 網状組織
- 結晶粒と結晶粒界との間で明らかな成分差があることにより、顕微鏡観察において網目状に見える組織。
→球状組織
- 網目状セメンタイト
- 主な炭化物がセメンタイトである網目状炭化物。過共析鋼の焼ならし組織で観察される。
→網目状フェライト
→球状セメンタイト
- 網目状炭化物
- 炭化物が結晶粒界に析出することで網目状に観察される組織。
→球状炭化物
- 網目状フェライト
- フェライトが結晶粒界に析出することで網目状に観察される組織。亜共析鋼の焼ならし組織で観察される。
→網目状セメンタイト
- アモルファス
- 原子配列に周期的な規則性を持たない非晶質の固体。身近な非晶質にはガラスなどがある。金属材料の場合、液相からの急冷により作られるため、厚く製造することが困難で、現在のところ構造用途での利用はないが、鉄系アモルファス合金の軟磁特性を利用した変圧器、半導体であるケイ素合金薄膜の太陽電池などが実用化されている。
→結晶
- アンダーエージング
- 析出硬化のような時効処理において、加熱時間の不足により所定の性能が得られない現象。時効不足。亜時効。
→オーバーエージング
- アンダーハードニング
- 通常よりも低い温度から焼入れを行うこと。金型などに高速度工具鋼を使用する場合の常套手段となっている。高速度工具鋼は本来、高い高温硬さを利用して高速切削を行う工具に使用する鋼材であるが、同じ硬さの金型用鋼よりも高靭性であることを利用して破損の頻繁な金型部品に代替使用する場合があり、硬さが維持できる範囲内で焼入温度を低く設定することで更なる靭性の向上を目的とする焼入れが行われる。焼入温度を低くするとオーステナイトへの炭素固溶量が減少し、マルテンサイトが低炭素化して靭性が大きくなる。一方で残留オーステナイト量が減少して二次硬化能は低下する。例えばSKH51は1200℃以上から焼入れすることをJISで規定されているが、1200℃よりも低い温度から焼入れし焼戻温度をやや低く設定することで、SKD11並の60HRCは確保しつつ、靭性は1200℃以上から焼入れしたSKH51を上回るような処理が行われる。
- 安定化処理
- 組織を安定化させ、時間経過による寸法変化や組織変化を防ぐことを目的とした処理。高合金鋼の高温焼戻し後に残留オーステナイトを安定させるための加熱や、ステンレス鋼の炭化物析出によるクロム欠乏層発生の防止などで適用する。また非鉄金属材料においても、機械的性質を安定化させるために再結晶温度以下で加熱する処理を行う場合がある。
- 安全率
- 力学的に計算された極限的な荷重と許容荷重との比。安全率=1では許容荷重が付加されたときに破壊するかしないかの瀬戸際で何とも危なっかしいが、通常は許容荷重の数倍〜数十倍で破壊荷重となるよう設計する。かと言っていたずらに安全率を高いものにしてしまっては機械が大きく、重くなる一方で、自動車などでは燃費の悪化に繋がったり、航空機などでは本来の機能をすら果たし得なくなってしまう。荷重を受ける部品の形状を単純化する、衝撃的な荷重を受けないような設計とする、信頼性の高い材料を使う、熱処理により材料の許容応力を引上げるなどの対策が安全率をできるだけ低く抑える上で有効。
- イオン窒化
- 減圧容器内に窒素ガスを導入し、製品と炉体との間で陰極処理を行うことで、放電エネルギーにより製品を窒化させる方法。窒素プラズマの衝突エネルギーを利用することにより短時間で処理が可能な上、窒化されにくい材質 (ステンレス鋼など) でも処理が可能になった。プラズマ窒化。
- 異常組織
- 本来の組成や製造工程から得られるべき組織とは異なる、異常な組織のこと。鉄鋼材料の熱処理分野では、浸炭処理において網目状セメンタイトが成長し、それを取囲むようにフェライト相ができて焼むらによる軟点を生じ、浸炭焼入れの目的を達しないことを指す。
- 一次焼入れ
- 浸炭処理品の芯部組織微細化を目的とした焼入れ。芯部は低炭素なため焼入温度を高く採る。
→二次焼入れ
→直接焼入れ
- 一次焼戻脆性
- 高温焼戻脆性のひとつ。機械構造用合金鋼でよく見られ、500℃程度の焼戻しをしたときに、それ以下の温度で焼戻しをした場合よりも靭性が向上しない、あるいはかえって悪化する現象。
→二次焼戻脆性
- 一般構造用圧延鋼
- 最も使用量の多い低炭素熱間圧延鋼材。建築物や橋梁、船舶、車輌等の構造物に用いる。引張強さの規定により分類され、板や帯、棒状に圧延されたもの以外にも、溝形鋼、I形鋼、H形鋼など様々な断面形状に成形して供給される。リムド鋼であり組織が不安定であること、炭素量の規定が厳密でないことなどから焼入れには向かない。SS材。
→機械構造用炭素鋼
→機械構造用合金鋼
- 異方性
- 材料取りの方向によって (例えば直径方向と軸方向とで) 機械的性質や物理的性質が異なること。熱処理現場においては特に圧延方向による異方性が問題となることが多い。
→等方性
- 鋳物用銑
- 銑鉄の一部が鋳鉄材料として供給されたもの。
- インゴット
- 溶鋼を鋳型に流し込んで固めたもの。鋼塊。インゴットを熱間圧延で所定の形状にして鉄鋼製品となる。現在、普通鋼は連続鋳造法で生産されており、特殊鋼のみインゴットから生産されている。
- インゴットパターン
- 鉄鋼製品の欠陥の一つ。インゴットは凝固の際に結晶状態や組成に偏りがあり、圧延工程でもこの内外差はなくならない。断面の腐食試験などで、腐食程度の差として観察される。
- ウィドマンステッテン組織
- フェライトが柱状に大きく成長した組織。鋳鋼を鋳込んだままの製品などで見られ、組織が非常に粗く機械的性質に劣る。組織名は研究者の名前に由来する。
- ウェーラー曲線
- →疲労曲線
- 羽毛状ベイナイト
- 顕微鏡観察において羽毛を蒔いたような組織に見えるベイナイト。上部ベイナイト
- 鋭敏化処理
- オーステナイト系ステンレス鋼の組織観察や粒界腐食試験のため、結晶粒界を腐食に敏感な状態にすることを目的とした操作。450〜850℃の温度範囲で行う。逆に言えばこの温度範囲に曝されたオーステナイト系ステンレス鋼の製品は、粒界腐食を発生しやすくなる。
- エージング
- →時効
- 液体浸炭
- 液体を浸炭剤とする浸炭。シアン化ソーダを主成分とした溶融塩浴に処理品を浸漬し、炭素と窒素を同時に拡散させる方法で、浸炭窒化とも呼ばれる。
→固体浸炭
→気体浸炭
- 液冷
- 水や油などの液体で冷却すること。空冷 (ガス冷) よりも速い冷却速度が得られる。
- エッチング
- 金属材料の組織試験において、組織による腐食度合いの違いを利用して化学的あるいは電気的に表面を溶解することで、着色したり物理的な段差による陰影を生じさせてコントラストを上げ観察を容易にする手法。マクロ試験では例えば高周波焼入れ品の断面組織は表面がマルテンサイト、芯部はパーライトとなっており、これを硝酸腐食するとマルテンサイトが黒く着色され焼入深さを知ることができる。またミクロ試験では粒界が化学的電位の違う相の隣り合った部分であることにより界面が選択的に腐食され、金属顕微鏡では凹んで陰になった部分が黒く見える。よってフェライト結晶粒は白く、粒界部分のみが黒く見え、パーライトはフェライトとセメンタイトの層状境界が腐食されるため低倍率では黒っぽく、高倍率では縞状に観察される。腐食液にはいくつかの種類があり、腐食温度や電解の有無などに違いがあるので、エッチングする試料に最も適した物を使用する。エッチングを全く行わないことをノーエッチと言い、非金属介在物や黒鉛分布を観察する際に適用される。
- 延性
- 破壊することなく押し延ばしたり引き伸ばことのできる性質。
- 延性破壊
- 金属の破壊 (破断) において、変形を伴いながら徐々に進行する破壊。軟鋼の引張試験で中央部がくびれながら細くなり、最終的に破断する現象が代表的。→脆性破壊
- 塩浴
- 化学的には"塩 (「しお」ではなく「えん」と読む)"とは酸と塩基の中和反応で発生するイオン結合化合物のことで、食塩も塩の一種。熱処理においては加熱して液体となった塩を等温槽の伝熱媒体として使用する。硝酸系塩浴が一般的で、200〜400℃程度の範囲でよく利用される。また空気のような気体より密度が高い分、熱移動が速く加熱効率が良好なので、焼入れなどの加熱媒体としても利用される。ソルト。
- 塩浴軟窒化
- 塩浴 (ソルト) を媒体として行う軟窒化処理。
- 塩浴焼入れ
- オーステナイト化した鋼を、塩浴を使用した等温槽 (ソルトバス) に投入する焼入れ方法。等温変態を利用した焼入れで広く利用されている。ソルト焼入れ。
→オーステンパ
→マルテンパ
- 塩浴炉
- 塩浴を加熱媒体とする炉。気体による熱交換に比べて密度の高い溶融塩浴での加熱は昇温が速く、大気遮断により酸化も少ない。
- エンリッチガス
- 浸炭性雰囲気熱処理においてカーボンポテンシャル調整のために炉内導入される炭化水素系のガス。増炭ガス。
- オイルテンパ
- 線材を送り出して連続的に油焼入れ焼戻しを行う処理。また、単語の意味から高温に熱した油に浸漬して行う焼戻しをこのように呼ぶ向きもある。酸素に触れないためテンパカラーが付かない利点があるが、当然ながら使用する油の着火に関して厳重な管理が必要となる。
- 黄銅
- Cu-Zn系合金で、真鍮とも呼ばれる。銅は赤みのある金属だが亜鉛の添加で黄色になるためこの名称がある。強度では鋼に至らないが、電気や熱の伝わりやすさ、加工性の良さ、腐食への強さなどの特徴があり、これらを要する部品の材料として機械部品にも度々使われる。ちなみに真鍮を意味する英単語は‘brass’で、ブラスバンドの‘ブラス’のことであり、トランペットなどの金管楽器は真鍮製であることが解る。
- 応力
- 荷重を受ける構造物の任意の断面における単位断面積あたりの抵抗力。例えば直径φ10mmの丸棒が軸方向に100kgの加重で引張られた場合、丸棒の軸方向に直角な面には100/25π≒1.27kg/mm² (12.5MPa) の引張り応力が生じていることになる。金属材料分野では内部応力の略語を指す場合もある。
- 応力集中
- 断面形状が一様でない部分に荷重がかかると、場所によっては平均応力より遙かに大きな応力を生じる現象。疲労破壊の起点となることが多く、一般に断面形状変化が急激なほど大きな応力集中を生じるので、変化をなだらかにする工夫 (段付形状→テーパやR形状/小径穴→大径化/等) が必要。またこれらの応力集中軽減対応は熱処理トラブル低減にも共通するものがある。
- 応力除去焼なまし
- 内部応力の除去を目的とした低温焼なまし。再結晶温度から変態点までの温度範囲に加熱保持する熱処理。
- 応力腐食
- 腐食環境下で引張応力を受けている表面から腐食する現象。オーステナイト系ステンレス鋼で問題になることが多く、冷間加工等の残留応力も腐食の原因となる。腐食メカニズムは諸説あるが、そのほとんどが塩素イオンの侵入によるもので、水道水や海水に曝される環境での使用は応力腐食の危険性を念頭に置く必要がある。
- 応力腐食割れ
- 応力を負担する金属部品で応力腐食が進み割れに至る現象。鉄鋼分野ではステンレス鋼で問題となることが多い。内部応力も割れの原因となるので、冷間加工を行った部品なら応力除去焼なましを行うなどの対策が有効。
- オースエージ
- 固溶化熱処理により過冷オーステナイト化した処理品をMs点以上の温度で時効によりマルテンサイト化させる処理。JISではSUS631がオースエージを要する材料として規定されており、オースエージ処理温度によって析出硬化温度が変化する。
- オーステナイト
- 面心立方格子で構成されたγ鉄固溶体の研究者名に由来する別称。純鉄では911℃以上に加熱するとオーステナイトに変態する。オーステナイト化する温度は炭素濃度が高くなるにつれて低下し、共析鋼 (炭素量約0.77%) 以上では727℃となる。展延性が高く塑性加工が容易。炭素固溶限2.14%。
- オーステナイト化温度
- オーステナイト変態を要する熱処理 (焼なまし、焼ならし、焼入れ等) での最終加熱保持温度。一般にオーステナイト化温度を低くした熱処理品は組織が微細で靭性が高く、逆にオーステナイト化温度を高くした熱処理品は組織が粗く焼入性が向上し、焼入時には残留オーステナイトが増加する。組織がオーステナイト化する温度ではなく、その製品をオーステナイト化させた温度を示す点に注意。
- オーステナイト系ステンレス鋼
- NiやMnの多量添加により、常温でもオーステナイト組織を保ったステンレス鋼。SUS304を代表とする18%Cr-8%Niの、いわゆる18-8ステンレス鋼が広く利用されている。耐食性や高温特性に優れるため、腐食が問題となる製品に利用され、身の回りでは台所用品などでよく見かける。オーステナイト系ステンレス鋼を使った製品は、製造工程内で冷間加工等の強いストレスを受けると、オーステナイト組織がマルテンサイト化するので、耐食性を回復するために固溶化熱処理を施して、再度オーステナイト化しなければならない。
- オーステナイト-フェライト系ステンレス鋼
- オーステナイト系ステンレス鋼よりもCrを増やし、一方でNiを減らしたステンレス鋼。Ni量の低下によりフェライト相が現れるため、オーステナイトとフェライトとの2相組織となる。ピッチング (孔食) や応力腐食割れに強い。
- オーステナイト変態
- 常温組織の加熱過程においてA1点を上回った際に起こる変態。
- オーステンパ
- オーステナイト状態から等温変態曲線のノーズ温度以下、Ms点以上という温度範囲で等温保持した後に冷却する熱処理。ばね製品など均一断面で小さな製品においてベイナイト組織を得る方法として適用される。等温保持温度が高いと上部ベイナイト、低いと下部ベイナイトとなる。また焼入性が悪い材料の大物製品で、通常の焼入れでは表面と内部とで組織や機械的性質の差が大きくなってしまうのを防ぐ目的で用いられることもある。通常の焼入れとは異なり、焼戻しを要しない。別名ベイナイト焼入れ。
- オースフォーム
- オーステナイト変態温度直上で熱間加工を行い、そこから焼入れすることで、結晶粒の粗大化を防ぎつつ再結晶しやすい状況下で微細な結晶を得る熱処理 (通常の熱間加工はオーステナイト化領域内でもかなり高い温度で行う)。衝撃値の高い高靭性の製品となる。
- オーバーエージング
- 析出硬化のような時効処理において、加熱時間が長過ぎることにより時効が過度に進行する現象。過時効。
→アンダーエージング
- 置狂い
- 熱処理を終了した製品が、時間の経過により変形、変寸を起す現象。残留オーステナイトの遅れ変態、内部残留応力の開放などが原因とされる。置狂いを防ぐには焼戻し工程でこれらの原因要素を低減、消滅させることが重要となる。
→経年変化
- 置割れ
- 熱処理を終了した製品が、時間の経過により亀裂を生じる現象。置狂いが過度に進行したもの。残留オーステナイトの遅れ変態、内部残留応力の開放などが原因とされる。置割れを防ぐには焼戻し工程でこれらの原因要素を低減、消滅させることが重要となる。
あ
か
さ
た
な
は
ま
や
らわ
他
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- カーバイド
- →炭化物
- カーボンポテンシャル
- 気体浸炭において、雰囲気ガスの処理品に対する浸炭能を示す数値。雰囲気ガスと処理品との間で起こる浸炭、脱炭反応が平衡に達するときの処理品表面炭素量に当たる。カーボンポテンシャル0.8なら、処理品の表面炭素量0.8%まで浸炭可能ということになる。平衡炭素濃度。
- 介在物
- 組織内に包含される異物。
→非金属介在物
- 快削鋼
- 切削性の向上を図った鋼。JISには硫黄快削鋼と硫黄複合快削鋼が規定されており、記号はSUM。切削速度の向上や切削工具の長寿命化などにより加工コスト低減が期待できる一方で、当然ながら機械的性質が劣るため、構造用部品としての使用には注意を要する。
- 階段焼入れ
- 焼入冷却の際、フェライトやパーライトの析出は防ぎつつ、Ms点より高い温度あるいはMs点直下の温度に保持した後 (等温変態曲線で湾の辺りに急冷·保持する)、室温まで冷却する焼入れ。マルテンサイト変態のアンバランス (空間的または時間的な大きな温度差) を緩和し、変形を抑えた焼入れが可能。冷却時の製品温度を時間軸上にプロットした場合に、チャート線図が階段状に描かれる為このように呼ばれる。
→マルテンパ
→マルクエンチ
- 回復
- 冷間加工などで格子欠陥が増大した状態から、加熱により結晶内部に蓄えられた歪みエネルギーが開放されていく過程。光学顕微鏡レベルでは結晶構造の変化は認められないが、格子欠陥の減少により硬さの低下、伸びや絞りの増大、電気抵抗の減少などが起こる。加工度が高い (格子欠陥が多い) ほど回復は進みやすい。更に温度を上げると次過程である再結晶へと進む。
- 火炎焼入れ
- アセチレンバーナーなどの燃焼熱で加熱して行う焼入れの現場的俗称であり、正確な熱処理用語とは言えない。炎焼入れと混同されるが、表面硬化を目的とした炎焼入れとは区別されるべきである。
- 過共析鋼
- 炭素量約0.77%以上の鋼。オーステナイト状態からゆっくりと冷却するとAcm線を越える温度で初析セメンタイトを生じ、残部は徐々に炭素含有率が減少して、共析組成になった状態でA1点を越える際に共析変態によってパーライトを生じる。
→亜共析鋼
→共析鋼
- 拡散
- 素材内部の場所による成分濃度差が、原子の移動により徐々に均質化しようとする現象。原子の移動は固体内でも起こり、温度が高いほど拡散が進む。固体拡散。
- 拡散変態
- 原子の拡散移動によって平衡状態に近い、安定的な組織となるような変態。鋼の焼なましにより得られるフェライトとセメンタイトの混合組織は拡散変態組織の代表例。
→無拡散変態
- 拡散焼なまし
- 組織の偏析を除去あるいは軽減させ、全体に均質な状態にすることを目的とした焼なまし。造塊後の圧延前工程として行われることが多い。処理温度が高いほど、また処理時間が長いほど偏析の拡散は進むが、一方で結晶粒の粗大化を招くことになる。拡散焼なましは処理温度が非常に高いので、この場合は後処理として結晶粒の微細化を目的とした焼ならしなどを行う。均質焼なまし。
- 加工応力
- 加工の結果として製品内部に生じる残留応力。
- 加工硬化
- 冷間での塑性変形により転位密度が増加し、それらが絡み合って転位の移動が困難になることで硬化する現象。針金を何度も折り曲げると硬くなり、最後に折れてしまう事例は多くの人が経験している。熱を加えて回復や再結晶化を促すことで加工硬化を解消できる。
- 加工性
- 加工の容易さを示す。「曲げやすい」「削りやすい」「延しやすい」材料は加工性が良いと言う。
- 加工歪み
- 機械加工により格子歪みを生じ内部応力が増加する現象。現場用語としては切削加工などで素材の内部応力が部分的に開放され、形状変化を生じる (平面が反るなど) ことを言う場合もある。
- 加工熱処理
- 熱間加工の熱を利用して行う熱処理。代表的なものにオースフォームがある。
- 加工誘起マルテンサイト
- 塑性変形などの応力により発生するマルテンサイト。過冷オーステナイトが外力によって変態する。加工熱処理などでは熱処理と塑性加工の組合せによって残留オーステナイトを減らし、機械的性質を向上させるのに有利な点がある一方、オーステナイト系ステンレス鋼の常温塑性加工ではオーステナイト組織の変態が耐食性を悪化させるなどのデメリットもある。
- 華氏
- 国内の温度表示はセルシウス度(℃)が一般的だが、欧米ではファーレンハイト度(゚F)もよく使われ、中国で‘華倫海特’の字を当てたことから「ファーレンハイトさんの温度」という意味で華氏温度と言う。ちなみにセルシウス度を摂氏と言うのは‘摂爾修斯’の当て字による。゚F=℃×(9/5)+32の関係があり、概ね-17.78℃=0゚F、37.78℃=100゚Fとなる。これは当時安定的に得られた最も低い温度である氷塩水を0゚F、人間の体温を100゚Fと定義したことによるもので、100゚Fは「ちょっとヌるめのお風呂の温度」といったところ。
- 過時効
- →オーバーエージング
- 過剰浸炭
- 浸炭層の炭素量が目標を大きく上回る不具合現象。
- ガス浸炭
- →気体浸炭
- ガス軟窒化
- 窒化性ガスを利用し、雰囲気炉内で行う軟窒化処理。
- ガス冷
- 熱媒体に気体 (ガス) を使用した冷却方法の総称。但し空気による冷却は空冷と呼び区別する。一般的には不活性ガス (窒素やアルゴンなど) を使用して酸化を防ぎつつ冷却を行う。
- 硬さ
- 荷重を加えた際の変形のしにくさ。ただし物理学的な定義はなく、硬さを示す数値は物理量ではない。硬いものほど傷が付きにくいとか、対象品より明らかに硬いものを押し付けた時に硬いほどへこまないとかいった経験的事例を機械化し、何らかの測定値を得ることで硬さを数値化しようと試みられているが、異なる方式の測定値を比較しても相関関係 (直線性) が充分であるとは言えない。
→モース硬さ
→ブリネル硬さ
→ビッカース硬さ
→ロックウェル硬さ
→ショア硬さ
→ヌープ硬さ
- 硬さ試験
- 硬さを示す数値を得るための作業。工業分野では試験片に試験片よりも硬い (であろう) 圧子を押付け、傷の深さや大きさを測ることで硬さを得る方法と、試験片に小さなハンマーを落とし、跳ね返り高さで硬さを得る方法とが採用されている。
- 型鍛造
- 金型を使い同一形状の製品を製作する鍛造。
→自由鍛造
- 可鍛化焼なまし
- 白銑から黒鉛を微細析出させて可鍛鋳鉄とするための焼なまし。長時間加熱により炭素の大部分を析出させたり、表面を脱炭させたりすることでフェライト地とし靭性を得るための処理。
- 可鍛鋳鉄
- JIS記号はFCM。Malleableを直訳し‘可鍛’と言っているが、鍛造可能と言うほどではない (そもそも鍛造によって造らなければならない形状なら鋳造の段階で形作ってしまうのが当然であろう)。球状黒鉛鋳鉄より更に衝撃に強い。
→黒心可鍛鋳鉄
→白心可鍛鋳鉄
→パーライト可鍛鋳鉄
- 過熱
- 熱処理において、目標温度を大きく上回る温度まで加熱されること。元の状態に回復させることができない過熱をバーニングと言う。
- 下部降伏点
- 軟鋼の引張試験における降伏現象で、上部降伏点に続いて現れる荷重増加がなくても伸びが進行する領域の応力値。
→上部降伏点
→降伏点
- 下部ベイナイト
- オーステンパによって析出するベイナイト組織のうち比較的低い温度の等温保持で生じる針状の組織。組織写真はレンズ状マルテンサイトによく似ており、私には判別不可能です。
→上部ベイナイト
- 下部臨界冷却速度
- 焼入れ冷却においてマルテンサイト変態が起こらない最大の冷却速度。焼なましや焼ならしを行うには、この下部臨界冷却速度よりゆっくり冷却しなければならない。
→上部臨界冷却速度
- 過飽和固溶体
- 溶質元素の固溶限が温度上昇に伴って増加する場合、加熱後に急冷するなどして第二相の析出を抑え、限度量以上の元素を無理に固溶したままで室温にまで冷却した固溶体。析出硬化の準備段階として過飽和固溶体化する処理を固溶化熱処理、あるいは溶体化処理と呼ぶ。
- カラーチェック
- →浸透探傷試験
- 仮戻し
- 本来の焼戻しが直ちに行えない場合に、それよりも低い温度 (大抵は200℃以下) で「仮に」行う焼戻し。
→湯戻し
- 過冷オーステナイト
- A1点以下の温度で存在するオーステナイト。焼入れ冷却中の過渡的な状態であり、Ms点を越えることでマルテンサイト化する準備段階。熱処理終了後も組織内に存在する場合は残留オーステナイトと呼ばれる。
- 完全焼入れ
- 最も冷却が遅れる中心部まで硬化した焼入れ。処理品を完全焼入れとするには、加熱温度、加熱保持時間、冷却速度などの条件を適切な状態に設定してやる必要がある。焼入性の高い鋼材であれば緩やかな冷却でも完全焼入れとなるが、焼入性の低い鋼では中心まで完全焼入れとすることは難しい。
- 完全焼なまし
- 塑性加工や機械加工を容易にするため、鋼の軟化を主な目的とした焼なまし。加工応力や前熱処理の影響などを“完全に”キャンセルする処理と言うコトであろうか。亜共析鋼ならA3線直上、過共析鋼ならA1点直上にまで加熱、保持した後炉冷する。単に焼なましと言った場合、この完全焼なましのことを指す。ところで、何をもって「完全」なのだろう。
- 機械加工
- 切削や研削など、工作機械を用いて行う加工。「機械にセットして削る加工」という理解で、当たらずとも遠からず。
- 機械構造用合金鋼
- 機械要素材料として使用される合金鋼。キルド鋼であり熱処理することを前提としている。炭素量約0.3%を境に、低炭素のものは浸炭用、高炭素のものは調質用となる。JISにはマンガン鋼 (SMn)、マンガンクロム鋼 (SMnC)、クロム鋼 (SCr)、クロムモリブデン鋼 (SCM)、ニッケルクロム鋼 (SNC)、ニッケルクロムモリブデン鋼 (SNCM) が規定されている。
- 機械構造用炭素鋼
- JIS記号はS-C (炭素量が間に入る)。機械要素材料として使用される炭素鋼。キルド鋼であり熱処理することを前提としている。0.25%までの低炭素鋼は焼ならし品で使用され、炭素量0.28%以上のものは調質を行い強靭鋼として使用する。しかし流通や在庫の状況からか、S45C (通常の材料出荷段階では圧延のみで熱処理はされていない) の丸棒を機械加工してそのまま使用する場面も多く見られる (下手をするとにわか設計者の中には「平板=SS400」「丸棒=S45C」と認識してしまっていると見受けられることも……)。浸炭用としてPやSの量を抑えたものは‘S15CK’のように末尾に‘K’が付く。
- 機械的性質
- 引張強さや降伏点、衝撃値、クリープ強さなど、変形や破壊に関する諸性質。これに対して比重や電気伝導度などは物理的性質、イオン化傾向や原子価などは化学的性質と呼ばれる。
- 機械要素
- 歯車やネジ、キー、継手など、機械を構成する部品。
- 幾何公差
- 図面上、直線で描かれた部分は「直線」でなければならないし、円で描かれた部分は「円」でなければならないが、完全な「直線」や「円」を実現することは不可能で、幾何学的な精度をどの程度まで求めるかを示したもの。真直度や平面度、真円度などの形状公差、平行度や直角度などの姿勢公差、同心度や同軸度などの位置公差、円周振れや全振れといった振れ公差がある。熱処理においては変態に伴う変形があるため、厳しい幾何公差のある部分が仕上げられた状態で焼入れを行うのはツラい。
→寸法公差
- 危険区域
- 焼入れにおけるMs点以下のマルテンサイト生成温度帯のこと。焼割れが発生しやすいためこう呼ばれる。焼割れを防止するにはこの区域をゆっくり冷すべきで、時間焼入れなどは焼割れ防止のために有効。
→臨界区域
- 気相蒸着
- コーティング材をガス化して、処理品表面に機能膜を蒸着形成させる工程。
→PVD
→CVD
- 規則格子
- 合金を構成する原子が規則的に配置している結晶格子。原子が規則的に配置するほうが低エネルギー状態であるため、結晶格子は基本的に規則格子化したがるが、加熱により熱振動エネルギーが増すと規則配列が乱れて不規則格子となる。
- 気体浸炭
- 気体 (浸炭性ガス) を浸炭剤として雰囲気炉内で行う浸炭。雰囲気ガスのカーボンポテンシャルによって浸炭層の炭素量を、処理時間によって拡散層の深さをコントロールする。処理品表面で一酸化炭素が二酸化炭素に酸化される際に余った炭素が処理品に侵入·拡散する反応 (ブードア反応) を利用するので、生体にとって危険な気体を扱うことになり、作業環境管理の面で注意が必要になる。
→固体浸炭
→液体浸炭
- ギニエ·プレストン·ゾーン
- 析出硬化現象の初期段階において、過飽和固溶体中で溶質元素 (析出硬化元素:SUS630におけるCuなど) が温度上昇に応じた原子交換で局部的な集合体 (クラスター) を作り、大きな格子歪みを発生させている部分。結晶の歪みにより塑性変形が阻害され硬さを増す。用語は二人の研究者名によるが、やや冗長なためかGP帯と略す場合が多い。温度が高いほど早い段階で発生し、やがて中間相を経て単元素または金属間化合物で構成される安定な析出物へと進む。完全に母相から析出すると格子歪みが緩和されるため、析出硬化処理温度が高いほど硬さが低下し靭性が回復する。通常の析出現象は結晶粒界から進むものが多いが、GP帯は結晶内部でも発生し第二相微細析出の核となる。
- キャップド鋼
- リムド鋼として作られた溶鋼を鋳込んだ後に蓋をして造塊時のリミングアクションを抑えた鋼。セミキルド鋼とリムド鋼の中間的な性質となる。
→リムド鋼
→キルド鋼
→セミキルド鋼
- 球状化焼なまし
- 炭化物を球状化させる目的で行う焼なまし。極軟状態が得られるため加工性が向上する。球状化焼なましされた鋼を焼入れすると硬い素地に更に硬い炭化物が点在する状態となるため耐摩耗性が増す。刃物として使用する場合は球状化が細かくされるほど切れ味の良い製品となる。球状組織の良否が製品性能を左右する高炭素クロム軸受鋼においては必須の工程となる。熱サイクルや加工外力により網目状炭化物を寸断、球状化させる処理内容となり、表面張力で水滴が丸くなろうとするイメージ。
- 球状黒鉛
- Mgなどの添加作用により球状に晶出した黒鉛。顕微鏡での組織観察では、その見た目からブルズアイと呼ばれる。
→片状黒鉛
- 球状黒鉛鋳鉄
- MgやCeの添加により、黒鉛を球状に晶出させた鋳鉄。耐摩耗性などの利点はそのままに脆さが改善された強靭鋳鉄でダクタイル鋳鉄とも呼ばれる。また黒鉛の形状からノジュラー鋳鉄と呼ばれたりもする。JIS記号はFCD。
- 球状組織
- 通常の焼なましなどであれば結晶粒界に析出する成分が、熱処理 (球状化焼なまし) によって寸断され、顕微鏡観察において球状 (粒状) に見られる組織。
→網状組織
- 球状セメンタイト
- 主な炭化物がセメンタイトである球状炭化物。
→網目状セメンタイト
- 球状炭化物
- 球状化焼なましにより、球状になった炭化物。炭化物を球状化させることにより、焼なましにおいては極軟状態として加工性を確保し、焼入れにおいては脆さを克服している。また硬い炭化物が球状に散らばっているものが表面に顔を出す形になり、高い耐摩耗性が得られる。工具として使用する場合は炭化物が細かく均一に存在することで、非常にメの細かいノコギリのような刃先となり切れ味が良くなる。
- 急冷度
- →H値
- キュリー点
- →A2点
- 共晶
- 液相から固相を晶出する際、同時に複数相が晶出した組織。鋳鉄の共晶組織はレデブライトと呼ばれる。
- 共晶点
- 共晶反応を起こす条件。鉄-炭素系平衡状態図において、鉄-黒鉛平衡では炭素量4.28%、温度1153℃、鉄-セメンタイト平衡では炭素量4.32%、温度1147℃。
- 共晶反応
- 液相から異なる複数の固相が同時に晶出する現象。鋳鉄の場合、比較的冷却速度が速い場合は共晶点 (鉄-セメンタイト平衡) においてオーステナイトとレデブライトを生じ、冷却が遅ければ共晶点 (鉄-黒鉛平衡) においてオーステナイトと黒鉛を生じる。
- 強靭鋳鉄
- 鋳鉄の弱点である脆さを改善すべく改良を加えた鋳鉄。
→球状黒鉛鋳鉄
→可鍛鋳鉄
- 共析
- 単一相から異相を析出する際、同時に複数相が析出した組織。鋼の場合、オーステナイトからフェライトとセメンタイトが同時にパーライトとして析出する。
- 共析鋼
- 炭素量0.77%程度の共析組成を持つ鋼。総ての結晶がパーライトとなる。これより炭素濃度が低い鋼を亜共析鋼、高い鋼を過共析鋼と言う。
- 共析点
- 共析変態を起こす条件。鋼の場合、炭素量0.77% (更に細かく0.768%とする文献もあり、麻雀が得意な人は点数計算の切上げ前7680:チーロッパで覚えるとラク)、温度727℃。
- 共析変態
- 共析組成のオーステナイトからパーライトを生じる変態。炭素鋼の場合、亜共析鋼なら初析フェライトが、過共析鋼なら初析セメンタイトがそれぞれ析出することで、残されたオーステナイト部分は徐々に共析組成に近付き、最終的には共析変態でオーステナイトが消滅してパーライト化する。共析反応とも。パーライト変態。
- 鏡面仕上げ
- 金属表面を細かな研磨剤で磨き、鏡のように仕上ること。現在金属材料から鏡を作ることは少ないが、プラスチック部品の量産用金型などでは必須の仕上げ加工となる。
- 鏡面性
- 鏡面仕上げのしやすさ。巨大炭化物を含むなど、性質が大きく異なる組織が荒く存在する材料では鏡面性が悪い。逆に組織が均一で細かな材料であれば、鏡面が得やすくなる。
- キルド鋼
- FeSi (フェロシリコン) やFeMn (フェロマンガン) で炉内脱酸後、更に取鍋でAlやFeSiなどの強脱酸剤を加え充分に脱酸して作られる鋼。造塊の際、ガスの発生がほとんどなく非常に静か (killed) に固まる。鋼塊頭部に凝固収縮による空洞が発生し、ここを切取るため歩留りは良くないが、均質で健全なため機械構造用炭素鋼以上の高級鋼材に使われる。ガス発生を更に減少させる方法として真空脱ガス法などがあり特殊鋼で採用されている。
→リムド鋼
→セミキルド鋼
→キャップド鋼
- 均質焼なまし
- →拡散焼なまし
- 金属間化合物
- 金属元素同士が結合した化合物。一般に硬さが高い。
- 金属結合
- 原子同士の結合は共有結合、イオン結合、金属結合、ファン·デル·ワールスの力による結合に大別されるが、金属結合は最外殻電子を特定の2つの原子で固定的に持合う共有結合とは異なり、電子を複数の原子で共有する形になっている。電子の属する原子が特定的でないため電子は比較的自由に結晶中を移動でき (自由電子と呼ぶ)、これにより電気伝導性や熱伝導性が良好となる。また結合の一部が引離されても、すぐ隣の原子と再結合が可能で、これにより大きく塑性変形させることが可能となる。
- 金属顕微鏡
- 光源からの光を資料表面に当て、反射光をレンズで拡大し結像させる顕微鏡 (小学校の理科実験で使うのは反射型ではなく透過型)。資料表面は鏡面琢磨 (バフ磨き) の上エッチングされることが多い。
- 金属疲労
- →疲労
- 均熱
- 熱処理品が炉内に搬入されると、まず表面が加熱され内部に伝わるために内外温度差を生じるが、一定時間保持することにより温度差が無くなっていった状態。あるいは内外温度差を緩和するため一定温度で保持して段階的に加熱を進めていく操作。ソーキング。
- 空気焼入れ
- 空冷による焼入れ。自硬性が極めて大きな鋼に適用される。冷却速度が遅いため焼入歪みは非常に小さい。
- 空孔
- 格子欠陥のひとつ。結晶内で本来配置されているべき原子がない状態の点状欠陥。金属結晶中には多くの空孔があり、さらに温度上昇に伴って指数関数的に増加する。空孔は拡散を媒介するため、温度が高いほど拡散が進む。
- 空冷
- 空気中に放置して行う冷却。放冷。一般的な冷却方法の中では炉冷に次いで冷却速度が遅い。
- クライオ処理
- 深冷処理の一種。一般的なサブゼロ処理は冷却剤にドライアイスを使用するが、液体窒素などを用いることでさらに低い温度にまで冷却 (-100℃以下) できるため超サブゼロ処理とも呼ばれる。
- クラック
- ひび。亀裂。破壊の起点となることが多い。始めから材料欠陥として存在する場合もあるが、熱処理によって生じることもあり、クラックを発生させない熱処理手順を開発することは生産活動において非常に重要。
- グラファイト
- →黒鉛
- クリープ
- 弾性限範囲内の変形であっても荷重を与えられたまま熱が加わることにより永久変形する現象。通常の塑性変形と区別する場合はクリープ変形と呼ぶ。
- クリープ強さ
- →耐クリープ性
- 繰返し焼戻し
- 高合金鋼など残留オーステナイトが多く発生する鋼種に対して高温焼戻しを行った場合、二次硬化で生じたマルテンサイトに対する焼戻しを目的として、2回以上の焼戻しを施すこと。
- 黒皮
- 熱間加工や熱処理などの加熱により鋼表面に発生する酸化スケール (表面のパリパリ)。加熱温度が高いほど、また加熱時間が長いほど発生量を増し厚くなっていく。金属鉄より熱伝達が悪く急冷を阻害するため、熱処理品に黒皮が残っていることは嫌われる (黒皮残存部分が軟点となり易い)。
- 黒染め
- 加熱したアルカリ処理液に鋼材を浸漬して四三酸化鉄による黒色酸化皮膜を形成させる表面処理。ポピュラーな表面着色法で、油との親和性が向上するため、防錆油含浸との組合せ処理により防錆能も得られる。
- クロム欠乏層
- Crは炭素との親和力が強く、炭化物析出の際、セメンタイトに対して優先的にクロムカーバイドが析出することで周辺のクロム濃度が低下することが、特にステンレス鋼において問題となる。ステンレス鋼はCrの不動態膜による耐食性を利用した鋼であるため、クロムカーバイドが析出し結晶粒界にクロム欠乏層ができると、そこから腐食が進行して粒界腐食割れに至る。
→オーステナイト系ステンレス鋼
- 経時変化
- →経年変化
- 経年変化
- 長期間の間に製品の形状や寸法が変化する現象。年をまたぐほどの長い期間で顕在化する場合もある。言葉のニュアンスからすれば経年強化や経年硬化といったプラスイメージの変化も経年変化の範疇であるが、これらは時効処理などで意図的に行われた上で製品化されるものであり、基本的には「寸法が狂う」という意味で経年‘劣化’を示す用語として捕えられる。鋼材の熱処理品では残留オーステナイトが遅れて変態を起こすことが大きな要因となる。
- ゲージ鋼
- SKS3の用途に由来する俗称。ゲージ (ブロックゲージ·栓ゲージ·リングゲージ·ねじゲージなど) は耐摩耗性が高く、経年変化が少ない (事実上ゼロ) であることが要求され、焼入れで硬さを実現できる鋼材を、不安定組織の少ない状態に熱処理することで実現される。具体的にはSKS3を焼入れし超サブゼロ処理で残留オーステナイトを消滅させた後に低温焼戻しを行う。ただし上記要求を満足できれば、他の鋼材で代用して各種ゲージを作っても構わない。
- 結晶
- 原子が規則正しく配列している固体。日常的には単結晶体を呼ぶ場合が多いが、金属は多結晶体である。
- 結晶格子
- 結晶内で原子が格子状に規則正しく並ぶ構造。金属の場合、規則性が崩れ格子状にならない部分もあり、これを格子欠陥と呼ぶ。
- 結晶粒
- 結晶としての規則性を保った一つの領域。多結晶体の場合、多くの結晶粒が集まった構造となっている。
- 結晶粒界
- 金属などの多結晶体において、隣り合った結晶粒の境界部分。不純物が押出されやすく、またエネルギー順位が比較的高いので、腐食の起点になる場合がある点が、特にステンレス鋼で問題となる。
- 結晶粒度
- 結晶粒の大きさの程度を示す値。顕微鏡100倍において1平方インチ視野内の結晶粒の平均観察数が1つである状態が基準で、このときの結晶粒度番号を1とする。視野内の結晶数が倍になる毎に結晶粒度番号を1づつ増分し、逆に結晶数が半分になる毎に粒度番号を1づつ減らす。つまり数字が大きいほど結晶粒が細かいことを示す。
- 結晶粒度番号
- 顕微鏡100倍において1平方インチ視野内の結晶粒の平均観察数をnとすると、結晶粒度番号Nは n=2N-1で定義される。視野内の結晶数から結晶粒度番号を計算するには、N=log2n+1で算出される。
- 結晶粒の粗大化
- 加熱温度が高いことにより、結晶粒が大きく成長する現象。機械的性質としては硬さが低下し、粘りが増す。熱処理作業上は一般的に嫌われる現象。オーステナイト化温度を高く採った熱処理品によく見られる。
- 結晶粒の微細化
- 外力や熱処理によって結晶粒が細かくなる現象。機械的性質としては硬さが増し、粘りが低下する。多くの熱処理作業が結晶粒の微細化により引張強さなどの要求仕様を確保している。一方で焼入性は低下するため、硬さを得たい場面ではどうしても結晶粒を粗大化させる誘惑 (焼入温度を高くする) に駆られる。
- 毛割れ
- 製品表面に現れる複数の細いクラック。髪の毛を撒いたように見える。ヘアクラック。
- 限界硬さ
- 硬化層深さ測定を行う際の閾値。例えばS45Cを高周波焼入れした場合の限界硬さは450HVであり、これを下回らない範囲が有効硬化層となる。材質や熱処理方法によって数値が異なるので、その都度確認すること。
- 研削割れ
- 研削加工は砥石接触部の火花を見ても解るように表面が瞬間的に高温となり、研削液 (水) によって急冷されるため熱的ストレスが大きい上、負のすくい角による加工であるため、滑りを起こした組織が切りコとして大部分除去される切削加工と異なり、製品側にも大きな組織的ストレスが残る。これらを原因として表面の狭い範囲に大きな応力が発生することで生じる細かなクラックのこと。対策としては焼戻しにより製品内の残留応力を充分に除いておくことや、切込みを少なくするなど研削ストレスを小さく抑えることが重要になる。
- 原子空孔
- →空孔
- 鋼
- 鉄と炭素を基本とする合金の総称。成分によって様々な種類が存在する。
→普通鋼
→特殊鋼
→炭素鋼
→合金鋼
→工具鋼
→特殊用途鋼
- 高温硬さ
- 高温に曝された状態での硬さ。高速度切削 (加工熱が高い) に用いる工具は高温硬さが高いことが求められる。高温に加熱され、室温にまで冷えた状態で硬さを維持する (焼戻軟化抵抗が大きい) 性能とは異なる点に注意。
- 恒温槽
- →等温槽
- 恒温変態
- →等温変態
- 恒温変態曲線
- →等温変態曲線
- 高温焼戻し
- 比較的高い温度 (概ね500〜600℃前後) で行う焼戻し (ただし「何℃以上を‘高温’と呼ぶか」という点については、業界ごと、または会社ごとに相違があるので、打合せ等では具体的な焼戻し温度で話を進めるべき)。構造用鋼においては炭化物を微細析出させソルバイト組織を得ることを目的とし、合金工具鋼においては使用温度に応じて予め熱履歴を与えることを目的としたり、残留オーステナイト消滅による二次硬化を狙った処理となる。また冷間工具であっても、後工程にコーティングや窒化など、処理品が500℃前後の温度に曝されることが分っている場合は、予め高温焼戻しを行う。二次硬化の現れる鋼材を高温焼戻しする場合は2回以上の繰返し焼戻しを必要とする。
→低温焼戻し
- 高温焼戻脆性
- 高温焼戻しを行う際、選択温度や処理方法によっては脆化してしまう現象。Niを含む鋼に顕著と言われ、Moの添加は脆化を防ぐのに有効、Pは有害となる。焼戻しは適正に行われても、使用時に同様の熱履歴を受けると脆性を示すようになる。
→一次焼戻脆性
→二次焼戻脆性
→低温焼戻脆性
- 鋼塊
- →インゴット
- 硬化層
- 高周波焼入れなどの表面焼入れや浸炭焼入れ、窒化処理などによって硬くなった表面層。
- 硬化層深さ
- 表面焼入れなどにより硬さを増した硬化層部分の深さ。「限界硬さを下回らない部分までの深さ」を示す有効硬化層深さや「母材より少しでも硬さが上昇している部分までの深さ」を示す全硬化層深さなどがある。
- 光輝熱処理
- 処理品表面の酸化や脱炭などの劣化を防いで光輝状態を維持する熱処理。保護雰囲気や真空中で熱処理を行う。
→雰囲気調整熱処理
→真空熱処理
- 光輝焼入れ
- 無酸化雰囲気中で金属光沢を失わないように配慮した焼入れ。酸素による悪影響を除去する操作を行うことが基本。
- 光輝焼なまし
- 無酸化雰囲気中で金属光沢を失わないように配慮した焼なまし。
- 合金
- 純金属に対して別種の元素を添加し (添加する物質を合金元素と呼ぶ)、材料としての性能を調整した金属材料。ただし純金属以外の全てを指すのではなく、別元素が‘不純物’として混ざっている場合は「合金」とは呼ばない。あくまでも所要の性能を得るため、合金元素を‘意図的に’加えた物であることを示す。別種の物質が同一固体内に存在するには、完全に別の結晶を構成する、化合物として結晶間に散らばる、同一結晶内で固溶体を作るなどの状態が考えられる。
- 合金元素
- 合金を作るために添加する元素。鋼の場合、基本的な合金元素は炭素であるが、他にもNi (ニッケル:靭性の向上/温度感受性の鈍化/耐食性の向上)、Cr (クロム:焼入性の向上/炭化物による耐摩耗性/不動態膜による耐食性)、Mo (モリブデン:焼入性の向上/焼戻脆性の防止)、W (タングステン:炭化物による耐摩耗性向上)。V (バナジウム:硬さの向上/結晶粒の粗大化防止)、Co (コバルト:二次硬化の促進)、Cu (銅:耐食性の向上/析出硬化元素)、Pb (鉛:被削性の向上)、Al (窒化性の向上) などが目的に応じて添加される。
- 合金鋼
- 炭素以外に種々の合金元素を添加して炭素鋼では実現できなかった性能を得た鋼の総称。構造用鋼においては機械的性質の向上や焼入性の改善、高温·低温特性の付与などを目的としてMn、Cr、Ni、Moなどが添加される。工具鋼では機械的性質や焼入性の他に、合金元素との炭化物形成による耐摩耗性向上のため、Cr、Mo、V、Wなどが添加される。
→炭素鋼
→機械構造用合金鋼
→合金工具鋼
→特殊用途鋼
- 合金工具鋼
- 焼入性の向上や炭化物による耐摩耗性の向上を図って合金元素を添加した工具鋼。JISではSKS/SKD/SKTが規定されている。
- 工具鋼
- 硬さを要求される用途に使用する鋼材。スパナやドライバーなど、一般に言われるところの「工具」ではなく、バイトやドリル、エンドミルなど刃先となるような部分、耐摩耗性を要求される部分を工具と呼ぶ。
→炭素工具鋼 →合金工具鋼
- 硬鋼
- 鋼の炭素量による分類において、比較的炭素量の高い鋼に対する用語。炭素量が概ね0.3%以上のものを示す場合が多い。JISには炭素量0.27〜0.82%の"硬鋼線材"が規定されている。
→軟鋼
- 高合金
- 合金元素量が比較的多い事を示すが、定量的な定義はない。
→超合金
→低合金
- 高合金鋼
- 比較的合金元素が多い鋼。合金工具鋼や高速度工具鋼、ステンレス鋼など特殊鋼の類を示す場合が多い。
→低合金鋼
- 公差
- →寸法公差
→幾何公差
- 格子
- →結晶格子
- 格子間原子
- 結晶格子の隙間に割込む形で侵入した原子。周囲を押広げる形で格子歪みを発生させる。
→侵入形固溶
- 格子欠陥
- 本来規則正しく並ぶべき結晶格子の規則性が乱れた部分。
→点状欠陥
→線状欠陥
→面状欠陥
- 格子歪み
- 結晶内に原子半径の異なる異物質が固溶することで結晶格子が湾曲したようになること。エネルギー順位が高く転位の移動が阻害されるので、材料としてはそれだけ強化されることになる。
- 格子変態
- 原子が非常に短い距離を移動するだけで結晶構造を変化させる同素変態。極めて短時間に変態が進行するため原子の拡散を伴わないことから無拡散変態とも呼ばれる。鋼のマルテンサイト変態は格子変態の代表。
- 高周波熱処理
- 高周波誘導電流の表皮効果 (周波数の高い交流電流は導体表面のみに流れる) を利用した、表面加熱による熱処理。高周波焼入れなど。加熱に要する時間が短く、作業コストの低減が期待できる。
- 高周波焼入れ
- 高周波誘導電流を利用して処理品の表面のみを加熱する焼入れ。硬さが得られると同時に、処理品表面に圧縮残留応力を発生させるので耐疲労性が向上する。また表面のみが硬くなれば用を足す耐摩耗部品にも多く利用される。一部分のみの加熱、冷却サイクルであるため基本的に質量効果を無視できるので、大物部品の表面焼入れへの適用例も多い。加熱時間が短いので一般的には炭素鋼や低合金鋼が処理対象であり、炭化物を分解するのに時間を要する高合金鋼への適用は難しい。
- 孔食
- 製品全体が腐食する (錆びる) のではなく、狭い範囲で腐食が発生する現象。特にステンレス鋼において問題となり、炭素拡散が不充分であったためクロムカーバイドが生じ、クロム欠乏層ができることでそこから腐食が進む現象や、外力による加工誘起マルテンサイトが選択的に腐食される現象を指す。海水中など、酸素や塩素などといった腐食性元素の多い環境で部分腐食が発生すると、それらが凹部に停滞して孔が深くなるように進行する。
- 剛性
- 弾性変形のしにくさ。荷重を加えたときの変形が少ない場合を「剛性が高い」と表現する。
- 抗折試験
- 両端を支えられた試験片の中央に静荷重を与え、破断するまでの荷重値やたわみなどを測定する試験。硬さが大きく、靭性の小さな材料 (焼入れされた工具鋼など) の試験として適用される。逆に延性の大きな材料 (焼なましされた物など) では破断に至らない。
- 構造用鋼
- 一般構造用圧延鋼、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼など、構造用途に適用される鋼の総称。構造物に加わる負荷を負担し、形状を維持することが役割となる。熱処理分野でこの呼称を用いる際は、調質を行わない一般構造用圧延鋼を除外する場合が多い。
- 高速度工具鋼
- 二次硬化温度が非常に高く (600℃程度) 高温硬さも高いことから、切削熱により刃先温度が高くなっても切削性能が保たれる工具鋼。これにより合金工具鋼よりも速い切削速度での加工が可能となり、加工時間が短縮される。現場では略語でハイスと呼ばれる。タングステンカーバイドによる高温硬さを有しバイトなどで利用されるW系ハイス、靭性が高く切削中に折れにくいためドリルに使用されるMo系ハイス、パウダーメタルの焼結により結晶粒が非常に細かく制御される粉末ハイスがある。JIS記号はSKH。
- 高炭素
- 炭素量が比較的多い事を示すが、定量的な定義はない。
→低炭素
- 高炭素クロム軸受鋼
- ボールベアリングやニードルベアリングなどの転がり軸受に利用される鋼材。ターゲット用途からベアリング鋼とも呼ばれる。概ね1%C、1%Crの特殊用途鋼でJIS記号はSUJ。開発目的用途が限定的であるためか丸棒形状のみで板物は流通していない。軸受以外では直動ベアリングの相手となるシャフトで、表面を高周波焼入れされた物が出回っている。高レベルな耐摩耗性が要求されるため、これを決定付ける球状炭化物の形状や分布に関する規定が厳しい。
- 高炭素鋼
- 比較的炭素量が多い鋼。工具鋼の類を示す場合が多い。
→低炭素鋼
- 高張力鋼
- 構造物の軽量化を図るために用いられる、一般的な構造用鋼より引張強さの大きな鋼材の総称。ハイテン。
- 硬点
- CrやMnが含まれる鋳鉄において、これらの元素が炭化物を形成し遊離した部分。切削性を阻害する。
- 硬度
- 「硬さ」の程度を数値化して示すことを指すが、硬さの数値化に物理学的定義がない以上、適正な用語とは言えない。つまり「角度」や「温度」といった用語程には‘度数’を適切に示す言葉ではない。似たような用語関係として「強さ」と「強度」があるが、「引張強さ」に限定すれば、これは物理単位の組合わせで数値化が可能であり「引張強度」と表記しても大きな支障はない。
- 降伏
- 軟鋼の引張試験において、荷重の僅かな増加、あるいは荷重の増加がなくても急激に伸びが進行する現象。それまでは必死に抵抗していたのに、あたかも‘降伏’したかのように急激な塑性変形を起こす。
- 降伏点
- 通常は上部降伏点を指し、強度設計の根拠として扱われる数値。
- 降伏比
- 降伏点の引張強さに対する比。強度アップのアプローチとして、引張強さを高めることが第一となるが、同じ引張強さでも強度設計の根拠となる降伏点が高いほうが有利であり、このような材料を「降伏比が高い」と言う。熱処理を施す鋼材は高強度であると同時に高降伏比であるものが多い。
- 高マンガン鋳鋼
- 概ねMn13%、C1%の組成で水靭により常温でオーステナイト化させた鋳鋼。加工硬化が大きく、打撃などを受けるとその部分が硬化して耐摩耗性を発揮する。ただし擦られ摩耗の場合は加工硬化する間がなく、オーステナイト状態のまま削り取られてしまうので、用途に応じた材料選定が必要。研究者の名を取ってハッドフィールド鋼とも呼ばれる。JIS記号SCMnH。
- コークス
- 石炭を高温処理し揮発成分を除いて炭素含有量を増やした可燃性固体。製銑において溶融熱源および銑鉄への炭素源として投入される。
- コーティング
- 処理品表面に機能性膜を形成し、耐食性や耐摩耗性などを与える処理。製造現場ではメッキを除外する向きがある。ホームセンターで「チタンコーティング」と表示され、表面が金色のドリルを見かけるのはPVD処理により炭化チタンをコーティングしたもの。
- 黒鉛
- 鋼中の炭素がセメンタイトを形成することなく、炭素単体で存在する状態。鋳鉄の顕微鏡組織で黒鉛の晶出を観察することができる。グラファイト。
- 黒鉛化焼なまし
- 高温でセメンタイトから黒鉛を分離させる焼なまし。遊離セメンタイトを黒鉛とフェライトに分解する第一段階と、パーライト中のセメンタイトまで分解する第二段階とがある。
- 黒心可鍛鋳鉄
- 白銑を黒鉛化焼なまししてフェライトと黒鉛に分解した可鍛鋳鉄で、破面が黒色を呈する。強靭鋳鉄のひとつ。
→白心可鍛鋳鉄
→パーライト可鍛鋳鉄
- 固体拡散
- →拡散
- 固体浸炭
- 炭素源となる木炭などの固体を浸炭剤とする浸炭。ただし実際には木炭から鋼へ固体間で直接炭素が移動するのではなく、大気中の酸素を使ってブードア反応により浸炭が進むので、炭素移動のメカニズムは気体浸炭と同様。管理の難しさから工業用途ではあまり利用されていない。
→液体浸炭
→気体浸炭
- コットレル効果
- 刃状転位に異元素が析出しコットレルの雰囲気を形成することで材料が強化されること。冷間加工による転位密度の増加と加熱による原子の移動を組合わせることで意図的に得ることができるが、転位が減少するまで温度を上げてしまうと消失する。
- コットレルの雰囲気
- 刃状転位の隙間が溶質原子で埋まり、エネルギー的に安定な状態になること。転位が固着され、動きにくくなることで強度が増す。研究者の名前からこう呼ばれる。
- 固溶
- 固相の状態で溶け合っている様態。例えば食塩水を冷して固体にする場合、水が氷になる際に塩分をできる限り追出そうとする (スポーツドリンクを凍らせ、部活の途中半解凍で飲むと濃く、部活が終って全部溶けたものを飲むと薄く水っぽいのはこのため) が、金属では液相から冷却しても異なる元素が均一な状態のまま固相になる現象が多く見られる。複数元素が固溶によって均質な固相となった金属を合金と呼ぶ。
→侵入形固溶
→置換形固溶
- 固溶化熱処理
- 合金成分が均一な固溶体となる温度にまで加熱し、特定の結晶を析出させないよう急冷する処理。オーステナイト系ステンレス鋼を均一なオーステナイト組織とする処理がポピュラー。アルミニウム合金などの非鉄金属でも、析出硬化の前処理として同じようなことをするのだが、こちらはなぜか溶体化処理と呼ぶ。
- 固溶強化
- 一般に純金属は軟らかく変形しやすいが、他の元素を固溶させると転位が動きにくくなり強化される。固溶強化に熱処理を組合わせることでコットレル効果により強化する方法もある。
- 固溶限
- 固溶できる最大量。例えばα鉄 (フェライト) の炭素固溶限は727℃において0.02%であり、γ鉄 (オーステナイト) では1147℃において2.14%である。固溶限を超えた炭素はセメンタイトとして結晶の外に析出する。
- 固溶体
- 複数の元素が独立した結晶を作らず、完全に溶け合って一様な状態になった固体。合金を作る上で重要な要素となる。
- 混粒
- 結晶粒度試験において、結晶粒度が極端に異なる結晶が見られること。結晶粒が細かい視野と粗い視野とで、粒度番号が3以上違う場合、または同一視野内で最頻粒度番号と3以上異なる部分の面積が20%以上ある場合に混粒と判定される。
→細粒鋼
→粗粒鋼
あ
か
さ
た
な
は
ま
や
らわ
他
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- 再結晶
- 塑性加工などにより内部応力を持つ金属結晶が加熱される際、内部応力のない新たな結晶が発生し、置換わっていく現象。加工度が高いほど低温で発生する。
- 再結晶温度
- 再結晶を起す温度。材料の組成以外にも、内部応力の程度、加熱時間の影響を受ける。すなわち強加工され応力の大きなものほど低い温度で再結晶するし、温度が低くても長時間保持されれば再結晶が進む。
- 再結晶焼なまし
- 再結晶を利用して鋼に特定の性能を与えるために行う焼なまし。異方性珪素鋼板において磁気特性の調整に用いられる。再結晶が生じる温度は冷間加工の程度に左右されるため、熱処理のみならず前後工程も含めた複雑な操作により磁化方向を制御している。
- 細粒鋼
- 結晶粒度番号が5以上の (結晶粒が細かい) 鋼。
→粗粒鋼
→混粒
- サブゼロクラック
- サブゼロ処理によって発生するクラック。サブゼロ割れ。残留オーステナイトのマルテンサイト化による変態応力割れ。防止策として予め低温焼戻し (湯戻し) をする事もあるが、この場合は残留オーステナイトの安定化が進み、サブゼロ処理の効果は低下する。
- サブゼロ処理
- Mf点の低い鋼において残留オーステナイトをマルテンサイト化させる目的で焼入れ後に氷点下にまで冷却する処理。置割れや置狂い (経年変化) の防止、硬さの向上などの効果が期待できる。冷却源として手軽なドライアイスを利用した-80℃程度以上までの冷却処理を指す用語とされることもあり、それよりも低い温度にまで冷却する場合はクライオ処理とか超サブゼロ処理と呼ばれる。残留オーステナイトの安定化を防ぐため焼入れ直後に実施されることが望ましく、時間が経過するほど効果が減少する。高炭素のSK材 (炭素工具鋼)、SKS材 (合金工具鋼) などや高合金鋼、浸炭により表面炭素量が増加した製品などで実施されることが多い。ちなみに0℃以下を表わす‘サブゼロ’は和製英語。
- 酸素
- 言うまでもなくO2のことであるが、工場内では酸素-アセチレン炎で加熱することを「サンソでアブって」などと言う場合がある
- 酸素-アセチレン炎
- ボンベ入りの酸素ガスとアセチレンガスによる混合気の燃焼炎。燃焼熱は3330℃に達し、工場内で手軽な加熱媒体としてよく使われる。
- サンドブラスト
- ショットブラストより細かな砂状の粒子を吹付け、スケール除去などを行う作業。
- 残留応力
- 熱処理などの製品化までの工程において、その結果として存在するに至った内部応力。遅れ破壊など熱処理に起因するトラブルの要因となりうる一方、用途に応じては有益となる残留応力を意図的に発生させて製品性能を高める処理もあり、残留応力を有効利用することも熱処理の重要な役割となる。
→引張残留応力
→圧縮残留応力
- 残留オーステナイト
- 焼入れ冷却が終了しても処理品内部に残る過冷オーステナイト。高炭素、高合金であるほどMf点が下がり、残留オーステナイトが多く発生する。サブゼロ処理などの深冷処理によりMf点以下にまで冷却するか、高合金鋼の二次硬化を利用した高温焼戻しにより低減·消失させることができる。常温でも徐々に変態が進行するため、置割れ等の各種熱処理トラブルの元凶として悪者扱されることが多いが、オーステナイト系ステンレス鋼の固溶化熱処理は「100%残留オーステナイト化させる処理」であり、この用途においてのみ熱処理の肯定的な目標とされる。
- シーズニング 1
- 鋳物を長期間放置して内部応力を除去する操作。現在では応力除去焼なましなどの人工時効で代用する。自然時効。枯らし。
- シーズニング 2
- 雰囲気炉内を目的の熱処理ができる状態に調整すること。雰囲気炉は長期間停止したりバーンアウトを行うと炉壁に水分や酸素が含まれるようになり、そのままで処理を行うと処理結果に影響する (浸炭における表面炭素量の低下など)。そのため炉内に雰囲気ガスを導入し、炉内雰囲気が飽和するまで空運転させて通常作業に移る。
- 時間焼入れ
- 焼入れ冷却の際、完全に冷却される前に冷却剤から引上げて急冷を中断する焼入れ。Ms点以下の危険区域 (急激に変態が進む温度帯) をゆっくりと冷却することにより、焼割れや変形を防止することができる。
→引上げ焼入れ
- 磁気焼鈍
- 磁気性能調整のため鋼を磁気変態点以上に加熱し、冷却する操作。電動機部品などで利用される。
- 磁気変態
- 強磁性体が常磁性体に (またはその逆) 変化する現象。結晶構造の変化は伴わないが、慣習的に変態と称する。
→磁気変態点
→キュリー点
→A2点
→β鉄
- 磁気変態点
- フェライトが磁気変態を起す温度。純鉄では780℃。ただし磁気に関する性質が不連続に変化するのではなく、この温度に至るまで徐々に変化するもので、厳密には‘変態点’と称するのはおかしい。
- 軸受
- 荷重を受けながら回転や往復する軸に接し支持する機械要素。摩擦による伝達損失を如何に減らせるかが重要で、転動体を配置した玉軸受 (ボールベアリング) やころ軸受 (ローラーベアリング) といった転がり軸受、油潤滑環境下で使用される滑り軸受 (メタルベアリング)、多孔質体に潤滑剤を浸み込ませた含浸軸受 (ドライベアリング) 等がある。高い耐摩耗性を要求され、特に転がり軸受の場合は転動体の点接触または線接触に対する強さを求められるため硬さが必要で、焼入れされた軸受鋼が使用される。
- 軸受鋼
- 高炭素クロム軸受鋼の略称。広義には軸受に使用される鋼全体 (耐食用途に使用されるステンレス鋼や大型ベアリングで用いられる肌焼鋼など) を含む。
- 時効
- 加熱や時間の経過により組織や性能に変化が生じる現象で析出硬化などの処理に利用される。合金元素の濃度差の拡散や凝集、内部応力の緩和などの他に、時効による変形や置割れなどのトラブルが起こる場合もある。温度が高いほど進行が速いので、時効による結果を意図的に得たい場合は加熱するのが一般的。
→自然時効
→人工時効
- 時効硬化
- 時効により硬くなる現象。熱処理の分野では析出硬化とほぼ同義語で、加熱による人工時効で硬化させる。また冷間加工した線材などを300℃程度の加熱でコットレル効果により時効硬化させる操作をブルーイングと言い冷間成形ばねなどで利用される。
- 自硬性
- 加熱後、意図的に速く冷却しなくても硬さが高くなる性質。自硬性が高い鋼材ほど焼入性が高く、空冷や放冷でも焼入れできる鋼種もあるが、逆に焼なましによって軟化させるには相当に緩やかな冷却が必要になる。
- 時効変形
- 時効により寸法や形状が変化すること。置狂い。
- 時効割れ
- 時効により割れが発生すること。置割れ。
- 自然時効
- 常温常圧環境下で進行する時効。季節をまたぐほどの長時間処理となるためシーズニングとも呼ばれる。常温時効。
→人工時効
- 質別記号
- アルミニウム合金の強化工程を記号化したもの。加工硬化や析出硬化などの処理内容を材料記号に続けて付記する。熱処理強化でよく見られるT6処理の場合、溶体化処理後人工時効したものであることを示す。
- 質量効果
- 焼入れ冷却の際にどんなに速く冷やしても内部に熱が残り、硬さが得にくくなる現象。大きな物ほど影響があるため、あたかも質量に比例して焼入れされにくいように見えることからこう呼ばれる。質量効果が大きく現れる鋼ほど焼入性が悪い。
- 磁紛探傷試験
- 製品表面の傷を検査する探傷法の一つ。焼入れにより表面にクラックが発生していないかを調べる。処理品を磁化させて磁紛 (鉄粉) を吸着させると、急激な曲率変化を起こす部分 (割れてシャープエッジとなった箇所) で磁力線が集中するため、磁紛が高密度に集まっている所は亀裂になっていると判断できる。
→浸透探傷試験
→超音波探傷試験
- 絞り
- 引張試験において試験前の断面積から最小径がどれだけ減少して破断したかを表す比率。一般に軟らかい (展延性の高い) 材料ほど数値が大きい。また製造分野では薄板をくぼませるプレス加工やへら絞り加工を示す用語としても使われる。→伸び
- 縞状組織
- インゴット内部の偏析が圧延される際に引伸ばされることでできる、圧延方向に平行な繊維状の組織。拡散焼なましを行うことで軽減できる。
- シャルピー衝撃試験
- 衝撃試験の一種。切欠きのある試験片の両端を固定し、中央の切欠き裏面をハンマリングして衝撃値を測定する。
→アイゾット衝撃試験
- 自由鍛造
- 金型等を使わずにハンマーなどの治工具だけで行う鍛造。
→型鍛造
- 主要5元素
- C (炭素)、Si (珪素)、Mn (マンガン)、P (リン)、S (硫黄) をまとめてこう呼ぶ。あらゆる鋼に含まれる合金元素で鋼の性質を左右する最も基本的な添加物。
- ジュラルミン
- Al-Cu-Mg系のA2017など、時効硬化により高強度を実現した代表的なアルミニウム合金。「ジュラルミンケース」の名称で外皮に利用した手提げのケースがお馴染み。
→超ジュラルミン
→超々ジュラルミン
- 準安定オーステナイト
- →過冷オーステナイト
- 純金属
- 不純物を含まず単一元素から成る金属。金属元素は固溶を許すため不純物の除去は非常に困難で、また機械的性質において合金のほうが有用である場合が多いので、工業の世界で利用される事例は極めて少ない。
- 純鉄
- 化学的には鉄の純金属を指すが、工業分野では常温で炭化物発生がない程度の極低炭素鋼を工業用純鉄としている。
- ショア硬さ
- 硬いものほど衝突時の跳返りが大きいことを利用した硬さ測定方法。一定の高さからハンマを落とし、跳返りが大きなものほど数値が大きく測定される。測定器が持運びできるので、大物を製造現場で測定するのに便利。また圧痕が残らないので、傷を嫌う製品の硬さ測定にも有効。ただし測定値が測定対象の表面粗さに左右されるので、表面の粗い製品では正確な数値が得られない。また測定者の熟練による個人差が比較的大きいので、運用には充分な訓練が必要になる。跳返り硬さであるがゆえの矛盾点として、ゴムを測定すると硬さが高く出る。
- 常温時効
- →自然時効
- 衝撃試験
- 試験片に衝撃荷重を与え、破断の際にどの程度エネルギーを吸収したかを測定する試験。延性破壊するような (軟らかくて粘い) 材料ほど衝撃吸収エネルギーが大きく、脆性破壊する (硬くて脆い) 材料では小さい。
- 衝撃吸収エネルギー
- 衝撃荷重を受けて破壊するまでにどれだけのエネルギーを吸収したかを示す値。脆い材料ほどこの数値が小さい。材料の靭性を評価する際に重要視される。
- 衝撃値
- →衝撃吸収エネルギー
- 焼結
- 材料粉末を圧縮成形し焼き固める処理。粉末そのものが凝着する場合と、結合材 (バインダー) を要する場合とがある。
- 焼結合金
- 焼結により作られる合金。結晶粒度を材料粉末のサイズによりコントロールできる利点がある。
- 晶出
- 液相から、結晶体である固相を生じる現象。
- 焼準
- →焼ならし
- 状態図
- 鉄鋼業界においては平衡状態図の略語として使われる。
- 焼鈍
- →焼なまし
- 上部降伏点
- 軟鋼の引張試験における降伏現象で、伸びが急激に進行し、荷重測定値が一時的なピークを生じる部分の応力値。省略して降伏点と呼ぶことが多い。
→下部降伏点
→降伏点
- 上部ベイナイト
- オーステンパによって析出するベイナイト組織のうち比較的高い温度の等温保持で生じる羽毛状の組織。
→下部ベイナイト
- 上部臨界冷却速度
- 焼入れ冷却においてパーライト変態が起こらない (100%マルテンサイト化する) 最小の冷却速度。単に臨界冷却速度とも言う。理想的な焼入れを行うには、この上部臨界冷却速度より速く冷却しなければならない。
→下部臨界冷却速度
- 初晶
- 液相からの冷却時、最初に晶出する結晶。
- 初析
- 変態点以上に加熱された固相からの冷却時、最初に析出する異相。
- 初析セメンタイト
- 高温の均一オーステナイト状態からの冷却において、過共析鋼で共析変態に先立って析出するセメンタイト。
- 初析フェライト
- 高温の均一オーステナイト状態からの冷却において、亜共析鋼で共析変態に先立って析出するフェライト。
- ショットピーニング
- 硬質粒子を高速で処理品に吹付け、処理品表面の加工硬化、瞬間的な加熱·冷却による変態、残留オーステナイトの低減、圧縮残留応力の付与などを行う。処理内容事態はショットブラストとほとんど同じであるが、ショット材の吹付け強さを制御して表面性能が一定範囲に収まるよう管理する点が異なる。耐疲労性の向上に有効で、例えば熱間成形ばねを熱処理後にショットピーニングすることで表面圧縮残留応力を与え、耐疲労性向上による長寿命化を図ることができる。
- ショットブラスト
- 硬質粒子を高速で処理品に吹付け、酸化スケールなどの異物除去を行う処理。ショット材にはガラスビーズやカットワイヤ (ワイヤーロープ用の鋼線を細かく切断したもの) 等を使用する。→サンドブラスト
- 徐熱
- ゆっくりと徐々に温度を上げて加熱すること。
- ジョミニー曲線
- ジョミニー式一端焼入法により焼入れした試験片の各部分における硬さを、水冷端からの距離を横軸としてプロットした曲線。水冷端から離れるほど硬さは低下するので、曲線は右下がりとなる。質量効果が大きく現れる鋼材ほど曲線の下降が激しく、焼入性の良い材料ほど下降が緩やか。
- ジョミニー式一端焼入法
- 焼入性評価法の一つ。オーステナイト化した試験片の一端のみを噴水頂部に接触させ焼入れを行う事で、噴水接触部が最も速く冷却され、離れるに従って冷却が遅れる。焼入性の良い材料ほど水冷端から離れた部分まで硬くなる。
- 徐冷
- 非常にゆっくり冷却すること (ただし冷却速度に関する定義はない)。現場的には炉冷のことと考えて差支えない。
- 真空脱ガス法
- 溶鋼中のガス化した不純物を真空状態にして排出させる処理。清浄度の高さが求められる高級鋼で採用される。
- 真空熱処理
- 高真空環境下で行う熱処理。無酸素状態で処理できるので製品の表面酸化を防ぐことができる。また真空放電を利用したプラズマ窒化などにも利用されている。
- 人工時効
- 適当な温度に一定時間加熱保持し時効を進行させる操作。
→自然時効
- 刃状転位
- 線状欠陥である転位のひとつ。規則正しく並んだ結晶格子に対して余分に1枚の原子面を割込ませたような形状が、カミソリなどの刃を押込んだように見えるためこう呼ばれる。原子直径分の隙間を生じさせる (空席があるイメージ) ので移動が容易で、塑性変形において大きな役割を果たす。また隙間部分に他原子が侵入することで、転位を固着させることによる強化 (コットレル効果) にも関わっている。
- 針状ベイナイト
- 顕微鏡観察において針のように尖った組織に見えるベイナイト。下部ベイナイト。
- 針状マルテンサイト
- 顕微鏡観察において針のように尖った組織に見えるマルテンサイト。ラス状マルテンサイト。
- 靭性
- 材料の粘り強さ。一般に硬い材料は靭性が低い。衝撃試験や抗折試験の測定値が大きな材料は靭性が高いと評価される。
- 浸炭
- 雰囲気ガスなどの作用により、加熱中の処理品表面に炭素が侵入·拡散する現象。あるいは処理品に炭素を浸入、拡散させ、表面層の炭素量を増加させる操作。製造現場内では浸炭焼入れを省略してこう呼ぶこともある点に注意。
- 浸炭硬化層深さ
- 浸炭焼入れによって硬化した部分の深さ。HV550を限界硬さとして、それを下回らない部分の表面からの距離。
- 浸炭浸窒
- →浸炭窒化
- 浸炭剤
- 浸炭処理において炭素源となる物質。
- 浸炭層
- 浸炭処理により炭素拡散された表面層。焼入れによりHV550以上を確保した部分を有効硬化層、母材との差が区別できない部分までを全硬化層と呼ぶ。浸炭層の深さは処理時間によって決まり、耐摩耗性が主目的であれば浅めで構わないが、外力に対する強さが必要であれば深めにする。
- 浸炭窒化
- 浸炭と窒化を同時に行う処理。
- 浸炭焼入れ
- 浸炭により処理品表面を高炭素化した上で行う焼入れ。表面は硬く、内部が粘り強いという性質を与えることができる。
→肌焼
- 浸透探傷試験
- 製品表面の傷を検査する探傷法の一つ。焼入れにより表面にクラックが発生していないかを調べる。着色浸透液を吹付け一定時間置いた後、表面の余分な浸透液を除去し現像液を吹付け、乾燥した現像液の毛細管現象により浸透液が傷の部分でにじみ出しているかを検査する。傷に染込んだ浸透液が現像液に吸出されるのは、パサパサのお菓子をかじると唾液が持っていかれて、口の中がモサモサになるイメージ。
→磁紛探傷試験
→超音波探傷試験
- 侵入形固溶
- 溶媒元素より原子半径の小さな元素が、溶媒の結晶格子の隙間に入り込むタイプの固溶。化合物を作らない (取残されたと言うべきか?) 単体の炭素原子は鉄の結晶格子に侵入形で固溶する (もちろん固溶限度内ではあるが)。
→置換形固溶
- 浸硫
- 処理品表面に硫黄を拡散させる処理。摩擦係数低減に効果がある。同時に硬さを上げるため、浸硫窒化などの組合せ処理を行う場合もある。
- 深冷処理
- 焼入れ終了温度を通常より低く室温以下にまで冷却する処理。
→サブゼロ処理
→超サブゼロ処理
→クライオ処理
- 水靭
- 高マンガン鋳鋼の固溶化熱処理。冷却方法が水冷であるのに結果的には軟らかくなることからこう呼ばれる。
- 水素脆性
- 原子半径の小さな水素は金属の結晶格子内に比較的容易に侵入するが、これにより靭性が低下する現象。酸洗いやメッキ工程で発生しやすいため、これらの後工程としてベーキングを行う。オーステナイトは水素を固溶するので、完全焼なまし等の変態点以上まで加熱する熱処理は脱水素処理として不適。
- 水溶液焼入れ
- 冷却剤に水溶液を用いる焼入れ。水焼入れと油焼入れの中間的な冷却速度が得られ、水焼入れでは割れが多く油焼入れでは硬さが得られないような場合に利用される。水溶液濃度の調整で冷却速度を管理する。
- 水冷
- 水に浸漬して行う冷却。一般的な冷却方法の中では最も冷却速度が速い。
- スウェーデン鋼
- ヨーロッパは製鋼の歴史も長く材質の良さに定評があるが、中でもスウェーデン産の鋼材は非常に高評価でこのように呼ばれる。鋼種を示す用語ではない。
- スーティング
- 浸炭炉内に煤 (すす) が発生する現象。ブードア反応による浸炭に関われなかった炭素が煤となって炉内に漂い堆積する。浸炭処理の妨げとなるため、定期的なバーンアウトで除去する必要がある。
- スケール
- 鋼の表面に生じた酸化皮膜。
→黒皮
- ステンレス鋼
- 耐食性の高い鋼の総称。JIS記号のSUSから、現場用語的に「サス」と呼ばれたりもする。自動車業界ではサスペンションの略語である「サス」とどのように使い分けているのだろうか。
- ストレッチャーストレーン
- 薄板の絞り加工において発生する表面のしわ模様。SPC材など、絞り加工の対象となる鋼材は軟鋼であり、降伏点が存在するため塑性加工中に降伏点伸びを呈し、これが原因となって成形品の外観を損なうシワとして現れる。調質圧延によって鋼板表面の降伏点を消失させることで防止できるが、長期間保存された材料では常温時効により再びシワが発生するようになる。加工じわ。
- ずぶ焼入れ
- 処理品を冷却剤 (この場合は水や油) に浸漬する焼入れのこと。熱い処理品を「ズブッ」と焼入れるイメージか?。
- 滑り
- 格子の特定面 (滑り面) 上で結合がずれる現象。金属の塑性変形を起こす要因となる機構。模式的には立方体の結晶で、ある面が平行四辺形になるような変形をイメージするのが近く、決して2つの直方体に別れて、その合わせ目だけが大きくずれるような変形ではない。
- 滑り面
- 滑りを起こす (または起こしやすい) 結晶格子上の面。原子が最も密に並んでいる面であり、結晶模型を作り、くるくる回しながら見ていると容易に見つかる。金属材料では、滑り面上を転位が移動することによって容易に塑性変形が起こる。
- 寸法公差
- 最大許容寸法と最小許容寸法との差。単に公差と呼ばれることもある。図面指示寸法が‘10mm’であった場合、小数点以下を四捨五入して9.5〜10.4mmを‘10mm’と見なすのか、いやいや9.9〜10.1mmくらいでないと10mmとは言えないとするのか、はたまた10.000……mmしか‘10mm’とは認めないのか、基準寸法として‘10mm’と書かれていても要求される精度によって「どの程度正確に‘10mm’であるべきか」は違ってくる。そこで‘10mm’に対してどれくらいのプラスマイナスが許されるのかを明示する必要が出てくる。「10mmを超えることは許されないが、マイナスは0.08mmまでならOK」という場合、100-0.08と基準寸法である10mmの横に許容差を併記し、「イチオー基準としては10mmだけど実際は10mmよりちょっとだけ大きくなきゃダメで、最低は+0.05mm、最大では+0.15mmまでを許容」であれば10+0.15+0.05と表記する。熱処理においては変態に伴う寸法変化があるため、厳しい寸法公差のある部分が仕上げられた状態で焼入れを行うのはツラい。
→幾何公差
- 脆化
- 熱処理などの結果として鋼が脆くなってしまう現象。
- 製鋼
- 鋼を製造すること。厳密には製銑によって鉄鉱石から高炉で取出された銑鉄から炭素を除き (精錬)、脱酸して鋼を得る工程。
- 清浄度
- 非金属介在物の少なさの度合。一般に非金属介在物は機械的性質に悪影響を及ぼすので、高機能材料になるほど高い清浄度が求められる。
→真空脱ガス法
→ESR法
- 脆性
- 脆さを示す性質。材料学的には靭性の反語と捉えられる。
- 脆性破壊
- 金属の破壊 (破断) において、ほとんど変形を伴わず急激に進行する破壊。身近なものではガラスが割れるのも脆性破壊の一つ。壊れ方としては非常に危険なものであるため、構造物では軟鋼などの延性破壊するような材質を採用するが、繰返し荷重による疲労破壊も脆性破壊であり、設計時には注意が必要になる。
- 製銑
- 鉄鉱石、コークス、石灰石を高炉に投入し銑鉄を製造すること。殆どが溶銑 (液体の銑鉄) のまま製鋼工程で使う転炉に送られるが、一部は型銑 (固めた銑鉄) にして鋳鉄材料として出荷される。
- 製鉄
- 鉄製品を作ることを一般にこう呼ぶが、鉄鋼業界では製銑と製鋼とに分けられる。
- 青銅
- Cu-Sn系合金で、大砲の砲身に使われていたことから砲金 (gun metal) とも呼ばれる。銅合金の中では硬さが高く、滑り軸受など耐摩耗性を要する部品に使われる。また硬さ (高弾性限) を生かして導電性のばねにも利用される。銅像のことを「ブロンズ像」と言うが、‘bronze’は青銅のことであり、銅像は青銅製であることが解る。
- 青熱脆性
- 200〜300℃付近の温度に加熱された鋼が脆性を示す現象。大気加熱により酸化被膜が紫色になる温度での現象であるためこの名がある。
- ゼーベック効果
- 異なる種類の導体の両端を接続して閉回路を構成すると、両端の温度差によって回路内に熱起電力が発生し、温度差に応じた電流が流れること。熱電対はこれを利用して熱起電力から温度を計測するための温度センサで、熱処理における温度測定に広く用いられている。
- 析出
- 固溶体から異相が分離し、別の結晶として出現する現象。固体の中で性質の違う固体が生じる。
- 析出硬化
- 過飽和固溶体から異相が微細析出することにより起こる硬化現象。あるいは硬化のための加熱処理。鉄鋼材料では析出硬化系ステンレス鋼が代表的。また焼入れ強化機構が利用できない非鉄金属の硬化方法として用いられ、ベリリウム銅やジュラルミンなども析出硬化により高強度を実現している。時効硬化と表現する場合もある。
- 析出硬化系ステンレス鋼
- Ni-Crステンレス鋼にCuやAlなどの析出硬化元素を添加し、析出硬化処理によって高強度を実現した鋼。ステンレス鋼に炭素を添加し、焼入れ可能としたマルテンサイト系ステンレス鋼は、炭素の働きによって錆びやすくなってしまうという欠点があるが、析出硬化系ステンレス鋼は極低炭素であり、耐食性を維持しつつ強度を高めている。通常は固溶化熱処理済みの状態で材料として出荷され、機械加工後に析出硬化処理を行う。
- 積層欠陥
- 原子の積重なり具合が乱れる格子欠陥で、面状欠陥のひとつ。
- 赤熱脆性
- 鋼が赤みを示すような熱間加工温度範囲で脆性を示す現象で、鍛造割れ等の原因となる。硫黄は赤熱脆性を増長するので、ほとんど総ての鋼種で上限を厳しく規制している。
- セミキルド鋼
- キルド鋼の歩留まりの悪さ、リムド鋼の偏析といった欠陥を改善すべく、両者の中間程度の脱酸を行ってリミングアクションは起こさず偏析の進行を抑え、しかしある程度の気泡発生は許容して頂部空洞の発生を少なくした鋼。
→リムド鋼
→キルド鋼
→キャップド鋼
- セメンタイト
- 鉄の炭化物。Fe3Cの化学式で示される。
- 遷移温度
- 材料の物性が急激に変化する温度 (あるいは温度範囲の中央値)。特に鉄鋼材料の場合、低温脆性により衝撃値が著しく低下する温度を指す。どのような鋼にも遷移温度はあるが、これが低いものほど低温用途に使用できる。
- 全硬化層
- 高周波焼入れや浸炭焼入れなどの表面硬化処理において、母材硬さより硬くなった表面層。有効硬化層より厚くなる。
- 全硬化層深さ
- 表面硬化処理において、焼入れの効果が及ぶことで母材硬さより少しでも硬くなった部分までの深さ。
- 線状欠陥
- 格子欠陥のひとつで、点状欠陥が一次元的に並ぶことで線状になったものと捉えられる。線状欠陥を周りの格子で徐々に正常な並びに補正していく部分を転位と呼び、線状欠陥の代表例となっている。
→点状欠陥
→面状欠陥
- 銑鉄
- 鉄鉱石とコークスを熱することで溶鉱炉 (高炉) から得られる鉄。鉄鋼材料の第一歩目で非常に炭素量が高く、これを精錬して鋼を得る。
- 相
- 物質の様態。目に見える相変化では固体、液体、気体の状態変化があるが、これを固相、液相、気相と呼ぶ。1つの系に異なる物質が混在する場合、境界面で区切られた均質な部分がそれぞれの相であり、例えば水と油とは混じり合わず上下2層に分かれるが、これは2つの異なる液相が共存する状態と言える。熱処理では主に固相の金属を取扱うが、温度や成分によっては同じく固相でありながら原子配列等の異なる相が現れる。慣例的には低温、低溶質側から順にギリシャ文字を当ててα相、β相、γ相、δ相……と区別する。
- 造塊
- 溶鋼を固めてインゴットを作る工程。
- 層状組織
- 異なった物質が層を成すように重なった組織。鉄鋼材料では主にフェライトとセメンタイトの非常に薄い層が繰返し重なったパーライト組織を指す。焼なましをした炭素鋼を高倍率で顕微鏡観察すると見られる。
→粒状組織
- 相律
- 相変態の起こる条件は勝手に決められるものではなく、特定の条件 (温度や圧力) でしか現象として現れない。つまり状態図において2相が現れてもいい条件や単相になる条件にはルールがあるとする考え方で、P+F=n+2(P:相の数 F:自由度 n:成分の数)の式で示される。例えば温度の基準となる水の三重点 (氷、水、水蒸気の3相が同時に現れる条件 : 0.01℃/0.006気圧) はn=1(H2Oのみ)、P=3(固体、液体、気体の3相) で、これを解くとF=0つまり自由度ゼロで、温度と圧力のどちらか一方でもこれを外れれば3相が同時に現れることはない。氷と水が2相同時に現れる条件 (凝固点あるいは融点と呼ばれる変態点) ではn=1、P=2からF(自由度)=1となり、温度と圧力のどちらか一方は自由に決めることができるが、どちらかが固定されればもう片方は自ずと決まってしまう。水の沸騰を考えると、圧力を大気圧とすれば水は100℃で沸騰するが、この場合はF=0であって100℃以外では沸騰しないし、2相同時に存在する間は100℃を維持する。水蒸気だけ、あるいは水だけになればF=1で、圧力一定下でも温度は変化できる (100℃より高い水蒸気や100℃より低い水は存在可能)。固相の場合は圧力の影響が少なく、また通常の工業分野では圧力=大気圧と見なせるため自由度の一つは無視して構わないコトになり、P+F=n+1と考えても差支えない。鋼 (成分は鉄と炭素なのでn=2) の平衡状態図における共析点はフェライトとセメンタイト、オーステナイトの共存点である (パーライトはフェライトとセメンタイトの混合組織なので相の数に数えない) ためP=3であり相律からF=0、つまり炭素量も温度も自由を許されず一点 (0.77%C/727℃) に固定される。
- ソーキング
- 均熱すること。または非常に高い温度で保持し、偏析や巨大炭化物を拡散させる処理を指す場合もある。
- 組織試験
- 金属組織の切断面を観察して材料の良否を判定する試験。肉眼、またはルーペ倍率レベルのマクロ観察によるものと、金属顕微鏡や電子顕微鏡でのミクロ観察によるものとがある。マクロ試験には内部の傷や気泡の検出、サルファプリント法による硫黄分の分布観察、エッチングした上での偏析やインゴットパターンの観察といった試験の他に、破断面の観察による破壊メカニズムの解明も含まれる。ミクロ観察では組織構造の検査や結晶粒度試験、介在物の有無検出などを行う。熱処理の目的は使用環境に適した金属組織を得ることであり、処理結果の適否は組織試験によって判定される。
- 塑性
- 物質に力を加えて変形させた時、力を除いても変形した状態を持続する性質。
→弾性
- 塑性加工
- 金属の塑性変形能を利用した加工法。鍛造、圧延、押出し、引抜き、線引、絞りなど。加工温度により熱間加工と冷間加工とに区分される。
- 塑性変形
- 塑性による永久変形。金属は塑性変形の範囲が広く、これを利用して様々な塑性加工法が適用されている。
→弾性変形
- 粗大化
- →結晶粒の粗大化
- 粗粒鋼
- 結晶粒度番号が5未満の (結晶粒が粗い) 鋼。
→細粒鋼
→混粒
- ソルト
- →塩浴
- ソルトバス
- 塩浴 (ソルト) を使った等温槽。
- ソルト焼入れ
- →塩浴焼入れ
- ソルバイト
- 焼入れした構造用鋼を概ね500〜650℃で焼戻しすることによって得られるフェライトとセメンタイトの微細粒状組織。著名な金属学者名に由来する。焼入れにより炭素を過固溶させたマルテンサイトから、高温焼戻しによって炭化物を細かく析出させたもの。機械的性質に優れ、強度 (引張強さ·降伏点·硬さ) と靭性 (衝撃値) を高次元でバランスさせており、構造用途において理想的な組織と言える。これよりやや低い温度で焼戻しを行った場合の組織はトルースタイトと呼ばれる。
→焼戻ソルバイト
あ
か
さ
た
な
は
ま
や
らわ
他
▲ ページ先頭
- ダイキャスト
- 金型鋳造。ダイカストとも。アルミニウム合金や亜鉛合金のような低融点金属材料を金型で鋳造することにより、複雑な形状の製品を精度良く製造することができる。金型は高温に曝されるため、SKD61など耐熱性の高い熱間ダイス鋼が用いられる。
- ダイクエンチ
- 金型に挟込んで冷却する焼入れ。→プレスクエンチ
- 耐クリープ性
- クリープ変形の起りにくい性能。高温環境下で使用される製品は一般に耐クリープ性が高いことが求められる。
- 耐孔食性
- 孔食に対する強さ。クロム欠乏層など、孔食の基点となる欠陥が少ないほど耐孔食性は高くなるので、材料としては高Cr低C化する、Moなど孔食を防ぐ元素を増やす等の対策が有効であり、熱処理としては固溶化熱処理により成分の不均一を解消することで効果が高まる。
- 耐候性
- 気温、湿度、紫外線、風雨など、気候の変化に対する機械的性質の変化のしにくさ。海洋での塩分や水圧、宇宙空間での真空や電磁波など、製品のおかれた特殊環境に対する性能低下の少なさを示すこともある。
- 耐衝撃性
- 衝撃的な荷重に対する破壊のしにくさを示す。衝撃試験によって得られた測定値は、靭性を示す数値として引用される場合が多い。
- 耐食性
- 酸化など腐食に対する耐久性。耐腐食性とも。鋼はもともと耐食性の悪い金属材料と言える。
- 耐食耐熱超合金
- 高温特性に重点を置いたNi基超合金でJIS記号はNCF。焼なましまたは時効処理を施す。一般に入手可能な金属材料の中では最も耐熱性が高い材料であり、ジェットエンジン部品などに利用されている。
- 体心立方格子
- 単位格子が立方体で、それぞれの頂点に当たる部分と、立方体の中心に原子が一つずつ配列する結晶格子。鉄鋼材料の場合、フェライト (α鉄) は体心立方格子となる。比較的変形しにくい構造で、他にクロム、モリブデン、タングステンなども体心立方格子を成す。bccと略す。
→面心立方格子
→稠密六方格子
- ダイス鋼
- 金型用鋼の別名。冷間ダイス鋼の代表格であるSKD11や熱間ダイス鋼のSKD61などを指す。
- 耐熱性
- 熱せられても機械的性質が低下しにくい性質。高温に曝される構造物に求められる。
- 耐熱鋼
- 耐熱性に優れた鋼。エンジンやガスタービンなどの内燃機関で利用される例が多く、高温環境下にあっても機械的性質が良好で、表面の酸化が少ない。JIS記号はSUHだが、一部のSUS (ステンレス鋼) も耐熱鋼に区分される。
- 耐疲労性
- 繰返し負荷による疲労破壊が発生しにくい性能。構造物においては非常に重要な事項であり、事実上疲労破壊しない設計が求められる。ただしロケットなど負荷を受ける繰返し数が非常に少ない場合には軽量化が優先される場合もある。飛行機も軽量化が重要であるが、やむを得ず耐疲労性を犠牲にする場合は該当部分の定期的な交換が必要になる。耐疲労性を向上させるには製品表面の硬さを高くする、表面圧縮残留応力を与える、表面粗さを小さくする、シャープエッジをなくすなどの対策が有効。
- 耐腐食性
- →耐食性
- 耐摩耗性
- 摩擦作用によって表面が摩耗する度合いが低い (摩耗しにくい。すり減らない) 性能。一般には硬いものほど耐摩耗性が高い。鋼を焼入れすると硬さが高くなり、耐摩耗性が向上するが、これでも不足する場合は更に硬い炭化物を析出する鋼に材料変更するなどの対策を要する。また耐摩耗性は硬さのみに支配されるのではない場合が多く、摺動部を異物質で構成すると凝着摩耗が起こりにくくなり、これに適度な潤滑を与えれば油膜によりお互いの接触はほぼゼロとなって摩耗が抑えられる。メタルベアリングと呼ばれる滑り軸受の多くは青銅合金や鋳鉄など、決して硬い材料ではない。機械要素における耐摩耗性には油膜の存在が大きく影響するので、潤滑の程度に応じた適切な材料選定が重要となってくる。
- 耐力
- 降伏現象が起こらない鋼では、除荷時に0.2%の永久変形を起こす荷重を耐力 (0.2%耐力) と呼び、降伏点の代わりとして設計指標に用いる。
- ダクタイル鋳鉄
- →球状黒鉛鋳鉄
- 多結晶
- 物質が多数の結晶によって構成される状態。金属は多結晶体。
- 脱炭
- 大気中の酸素などの作用により、加熱中の処理品表面から炭素が失われる現象。
- タフトライド
- ドイツのデグサ社が開発した塩浴軟窒化法。本来は商品名であるが一般名詞化した感がある。処理品の最表面に薄い窒化膜を形成し、摩擦係数が低減することで耐摩耗性が向上するため、摺動面に利用される。また表面硬化や圧縮残留応力の発生により、耐疲労性の向上も見られ、個人的な使用感からすると防錆能力も高い。塩浴にシアン化合物を使用するため、取扱いには厳重な管理が必要。
- 単位格子
- 結晶構造を論ずる際に、鏡像や回転などで対称性を維持する最小単位の原子配列。単位胞とも。
- 炭化物
- 金属と炭素との化合物。カーバイド。2種以上の金属元素を含むものを複炭化物と呼ぶこともる。最も代表的な炭化物としては、鉄と炭素の化合物をセメンタイトと言う。他にクロムカーバイド、タングステンカーバイド、バナジウムカーバイドなどがあり、一般に硬くて脆い。炭化物生成金属を含む合金は耐摩耗性を要求される場面で多く利用される。
- 炭化物生成元素
- 炭素と結合して炭化物を作る元素。鉄鋼材料分野ではFeよりも炭化物を作りやすく、かつセメンタイトよりも硬い (耐摩耗性に有効な) 炭化物を成すCr、W、Vなどを指す場合が多い。Crよりも炭化物生成能の高いTiやNbは、ステンレス鋼におけるクロム欠乏層防止のために添加される。
- 単結晶
- 物質が単一の結晶によって構成される状態。代表的な単結晶体としては水晶などがある。
- 弾性
- 外力により変形するが、力を除くと元の形状に戻る性質。
→塑性
- 弾性変形
- 弾性による一時変形。ばねやゼンマイは金属の弾性変形を利用した機械要素と言える。
→塑性変形
- 弾性限
- 弾性変形域の最大荷重で弾性限度とも。これを超えると塑性変形する。
- 鍛造
- 外力による塑性変形で金属製品を形作る方法。赤く熱した金属をハンマーで叩く映像がよく見られるがこれは自由鍛造に類する。工業製品の多くは型鍛造によって製品化される。
→熱間鍛造
→冷間鍛造
- 鍛造焼入れ
- 熱間鍛造時の熱を利用して行う焼入れ。加工熱処理の一種で、再加熱分のエネルギーロスを節約できる。
- 鍛造割れ
- 鍛造時に発生する亀裂。塑性変形能以上の過度の変形を与えることで発生する。
- 炭素鋼
- 炭素を主な合金元素とする鋼の総称。炭素量によって分類され、亜共析鋼域のものは構造用鋼、共析鋼域から過共析鋼域のものは工具鋼として利用されている。
→一般構造用圧延鋼
→機械構造用炭素鋼
→炭素工具鋼
- 炭素工具鋼
- 炭素を主な合金元素とする工具鋼。JISではSK材として規定されている。炭素以外の合金元素をほとんど含まず、焼入性に劣るため、厚さのある工具では質量効果により硬さが得られない。
→合金工具鋼
- 炭素量
- 鋼における炭素の重量パーセント。鉄鋼材料において炭素は最も主要かつ重要な添加元素であり、この値は鋼の性質を決める主要なファクターとなる。
- 置換形固溶
- 溶媒元素に対し原子半径が似通った元素が、溶媒の結晶格子を構成する原子と入替るタイプの固溶。鋼に添加される合金元素としてポピュラーなクロムの原子は鉄原子と置換わる形で固溶する。
→侵入形固溶
- 窒化
- 鋼表面に窒素を侵入·拡散させて硬い窒化物層を形成させる表面硬化処理。窒素は拡散が遅く、厚い窒化物層を得るには大きなエネルギーと長い時間が必要になる。窒化処理温度は概ね500℃程度であるため、熱処理した高硬度工具の表面を更に硬くする目的などで窒化する場合、予め500℃以上の高温焼戻しを施す必要がある。
→イオン窒化
→プラズマ窒化
→軟窒化
- 窒化鋼
- 窒化による表面硬化処理に適した鋼。JISではSACM645 (のみ) が規定されている。
- 窒化物
- 金属と窒素との化合物。ナイトライド。硬さが高いので鋼の表面に窒素を拡散させて窒化物層を形成させ、表面硬さを得る処理 (窒化処理) として利用される。
- 中間焼なまし
- 冷間加工の工程中で施す低温焼なまし。回復温度、または再結晶温度にまで加熱し、結晶粒を整えて内部歪みを抑えることにより、後工程の効率化、加工不具合 (割れなど) の低減を目的とする。工程間に行う熱処理なため"中間"と呼ぶ。完全焼なましと低温焼なましの‘中間’の温度という意味ではない。
- 鋳鋼
- 鋳造によって形状を作られた鋼。
- 鋳造
- 溶けた金属を型に流し込んで製品とする加工法。
- 鋳鉄
- 炭素量が2%以上で、基本的には炭素が炭化物としてではなく単体で晶出し、フェライト+黒鉛の組織を成す。黒鉛の潤滑作用により耐摩耗性が良好で、ピストンリングやブレーキディスクに利用される。また振動の減衰能力が高いので、工作機械の土台部分に使われる。本来は組成によって分類されるべきモノだが「鋳造によって形作られた鉄」というニュアンスを含むことが多い。
- 稠密六方格子
- 単位格子が六角柱で、それぞれの頂点に当たる部分と、六角面の中心、さらには六角面間に三つの原子が配列する結晶格子。鉄鋼材料では高圧環境下でε相としてこの格子配列が見られるが工業的には現在ε相を利用することはない。他にマグネシウム、亜鉛などが稠密六方格子を成す。
→体心立方格子
→面心立方格子
- 超音波探傷試験
- 製品の内部欠陥を検査する探傷法の一つ。超音波の反射エコーにより、内部にある欠陥の位置や大きさが判定できる。妊婦さんのおなかの赤ちゃんをチェックする「エコー」も原理的には同じもの。
→浸透探傷試験
→磁紛探傷試験
- 超硬
- 超硬合金の略称。
- 超合金
- 溶質である合金元素の総量が、溶媒である鉄より多く添加された (重量パーセントでFeが50%以下の) 合金。JISでは耐食耐熱超合金 (NCF) が規定されている。
- 超硬合金
- 高温での耐摩耗性が非常に高い (つまり高速切削工具として使用できる)、高融点金属炭化物を主成分とした焼結合金。タングステンカーバイドの微細粉末を、コバルトをバインダーとして焼結した非常に硬い工具は加工現場でお馴染みのもの。ハイスを越える工具として、バイトの刃先やエンドミル等で利用されている。加工現場では‘超硬’と略される。言葉の使い方からすると、若い女性が「チョーカワイイ」と言っている「チョー」が「とても」という意味であるのと同様の「超」であり (つまり‘チョー硬い合金’を意味する)、過去の機械産業従事者のボキャブラリーは現代人に匹敵する先見的なものであると言える。それどころか「ジュラルミン」より強い合金を「超ジュラルミン」、更に強いものを「超々ジュラルミン」と言い表しているトコロなんかは、それを凌駕しているのでは?
- 超サブゼロ処理
- サブゼロ処理は通常ドライアイスを用いて行われるが、これより低い温度にまで冷却する処理。液体窒素を用いる場合が多い。
→クライオ処理
- 調質
- 焼入れと焼戻し (高温焼戻し) の組合せでソルバイト組織を得る処理。構造用鋼には必須の熱処理となる。加工図面の処理内容欄に‘焼入焼戻し’と表記されている場合は調質のことを指す場合が多い。広義には材料の強靭性を向上させるような結晶粒微細化操作を指し、熱処理以外の工程も含まれる。
- 調質圧延
- 冷間圧延鋼板の製造最終段階において加工硬化を除くための焼なましを行った後で、表面の強靭さをある程度回復させるために行う軽度の圧延。調質圧延を省くと、絞り加工などで表面に亀裂やシワが発生するので、それを防ぐために行う。スキンパスとも。
- 調質鋼
- 調質を行って使用される構造用鋼。S-CやSCMなど、従来の構造用鋼のことを、非調質鋼に対してこう呼ぶ。
- 超ジュラルミン
- Al-Cu-Mg系のA2024など、時効硬化により高強度を実現したアルミニウム合金。ジュラルミンよりも更に強いという理由からこう呼ばれる。航空機部品など、軽さと強さを同時に要求される部品に使用される。
- 超々ジュラルミン
- Al-Zn-Mg系のA7075など、時効硬化により高強度を実現したアルミニウム合金。超ジュラルミンよりも更に強いという理由からこう呼ばれる (それにしても“超”を重ねてくるとは……)。従来のジュラルミンが銅を析出硬化合金としているのに対し、銅よりも固溶限が高い亜鉛を使用することで、大きな析出硬化を得ている。実は国産技術であり、ゼロ戦の材料にもなっていたりする。
- 直接焼入れ
- 浸炭焼入れにおいて、本来は浸炭、一次焼入れ、二次焼入れと進めるべき作業を、浸炭処理後そのまま焼入温度 (浸炭層の炭素量を基準にして決定する) まで下げて保持し、直ちに行う焼入れ。仕様上の問題がなければ、従来工程よりも大幅に作業効率が改善する。
- 疲れ
- →疲労
- 疲れ強さ
- →耐疲労性
- 低温脆性
- 室温以下の低温で鋼の衝撃値が低下し脆くなる現象。リンは低温脆性を増長するので、ほとんど総ての鋼種で上限を厳しく規制している。
→遷移温度
- 低温焼なまし
- 加熱保持温度を変態点以下とする焼なましの総称。
→応力除去焼なまし
→中間焼なまし
→軟化焼なまし
- 低温焼戻し
- 焼入硬さの低下を最小限に抑えるため、比較的低い温度 (概ね200℃程度以下) で行う焼戻し。常温で使用する刃物や工具などで適用される。
→高温焼戻し
- 低温焼戻脆性
- 約200〜400℃の温度で焼戻しを行うと、それ以下の温度で焼戻しを行った場合より靭性が低下してしまう現象。300℃脆性とも呼ばれる。特に構造用鋼ではこの現象が顕著で、用途から言っても好まれざる性質である。一旦高温焼戻しを行えば、この温度帯に曝されても脆化は起こらない。
→高温焼戻脆性
- 低合金
- 合金元素量が比較的少ない事を示すが、定量的な定義はない。
→高合金
→超合金
- 低合金鋼
- 比較的合金元素量が少ない鋼。機械構造用合金鋼の類を示す場合が多い。
→高合金鋼
- 低炭素
- 炭素量が比較的少ない事を示すが、定量的な定義はない。
→高炭素
- 低炭素鋼
- 比較的炭素量が少ない鋼。機械構造用炭素鋼の類を示す場合が多い。
→高炭素鋼
- 滴注式ガス浸炭
- 滴注炉内にメタノールを滴下、熱反応させ、エンリッチガスとしてプロパンガス (LPG) などを使用しカーボンポテンシャルを制御する浸炭。雰囲気ガス生成のための変成炉を必要としないので設備費が安く、また単体での稼働ができる (変成炉を使用する浸炭作業では通常変成炉1台で浸炭炉数台分の雰囲気ガスを生成する) ので小規模処理に向く。
- 滴注炉
- 炉内に有機剤を滴下して雰囲気調整を行う炉。滴注浸炭や無酸化熱処理などで利用される。
- テストピース
- 試験片のこと。熱処理の結果として機械的性質がどのように変化したかを測定する総ての試験片 (引張試験片、衝撃試験片など) がテストピースではあるが、現場的には破壊検査が許されない製品の代わりに切断し、断面を検査するための試験片を指す場合が多い (浸炭焼入れにおける浸炭深さを検査するためのもの等)。
- 鉄鋼
- 鋼を主とし、鉄 (鋳鉄) を含む金属材料の総称。
- 転位
- 金属結晶の格子欠陥。結晶は原子が規則正しく並んでいるものの、所々に配列の乱れが存在する。金属における塑性変形の容易性は、転位が滑り面を移動していくことによって起こると説明付けられる。
→刃状転位
→螺旋転位
- 転位密度
- 単位体積当りの転位線の総延長。転位密度が高いほど塑性変形に対する抵抗が高くなり、結果として硬さが増す (加工硬化)。焼なまし状態の転位密度は概ね106〜108cm/cm3程で、このときの転位の平均間隔は原子が数千〜数万個分と計算される。
- 展延性
- 展性や延性。
- 電気抵抗炉
- 発熱体に通電させ、電気抵抗によって生じるジュール熱で加熱するタイプの炉。制御が容易で炉内雰囲気を乱さないため、雰囲気調整熱処理や真空熱処理など、最終工程に近い熱処理での利用が多い。
→燃焼炉
- 点欠陥
- →点状欠陥
- 点状欠陥
- 格子欠陥のひとつで、原子1個分オーダーの欠陥であるため「点」と表現される。結晶内のあるべき部分で点状に原子が欠落した欠陥 (空孔)、あるいは結晶の隙間に余分な原子が押込まれるように存在する欠陥 (格子間原子) のこと。
→線状欠陥
→面状欠陥
- 展性
- 破壊することなく薄く拡げ延すことのできる性質。
- テンパカラー
- 焼戻し加熱により製品表面が酸化して付いた色。焼戻色。低温の焼戻しでは黄色付く程度であるが、高温の焼戻しになるほど酸化が進み、黒くなっていく。
- 等温槽
- 一定温度に保持された槽。例えば予熱が必要な熱処理の場合、炉内温度を温度調節計のプログラミング機能で階段状に上げていく方法と、各温度に設定された複数の等温槽に一定時間毎で順番に投入するのとでは、処理品が受ける温度履歴としては同じことになる。また塩浴焼入れの冷却槽としても使用される。
- 等温変態
- オーステナイト化温度から冷却する際、一定温度で保持した状態で進行する変態。恒温変態。通常の焼入れは室温まで連続的に冷却することでマルテンサイト変態が進行するので、連続冷却変態と呼ぶ。
- 等温変態曲線
- 所定の温度に加熱保持した後、等温槽に投入するなどして一定温度に保持した場合に、変態がどのように進行するかを記録した線図。縦軸に温度、横軸に時間 (対数目盛) を取る。等温焼なましやオーステンパなどの等温変態を利用する熱処理や、マルテンパなどの無拡散変態の遅れ (湾の部分) を利用する熱処理において指標となるもの。線図の特徴的な形からS曲線、C曲線とも呼ばれる。恒温変態曲線。TTT曲線。
→連続冷却変態曲線
- 等温保持
- 熱処理冷却において、目的に応じて任意の温度に一定時間保持すること。オーステンパやマルテンパ、等温焼なましなどの処理で利用される。冷却剤の冷却能に任せて室温、あるいは室温近くにまで休むことなく冷却する場合は連続冷却と呼ぶ。
- 等温焼なまし
- 完全焼なましを短時間で終了させることを目的とした焼なまし。等温変態曲線のノーズ温度直上を狙って等温保持し、パーライト変態をなるべく短時間で終了させ、その後空冷 (もしくは急冷) する。
- 同素体
- 同一元素で構成される物質が、結合方法や原子配列が異なるだけで性質の違う物質となる場合、両者を同素体と呼ぶ。酸素とオゾンの関係 (O2⇔O3) も同素体の一つ。
- 同素変態
- 物質が結合方法や原子配列の変化のみで性質の異なる同素体に変化すること。常温ではα相である鉄が、911℃でγ相に変化するのも同素変態の一例。
- 等方性
- 材料取りの方向によって (例えば直径方向と軸方向とで) 機械的性質や物理的性質の差がない (あるいは非常に小さい) こと。熱処理現場においては特に圧延方向による性質の差が少ないことを求められる場合が多い。
→異方性
- 特殊鋼
- 「製法や添加する合金元素が特殊な鋼」というニュアンスであるが、やや漠然とした感がある。高合金鋼やハイスなどは間違いなく特殊鋼であろうが、どこまでをそう呼ぶべきか定かではない。なお統計上は機械構造用炭素鋼や炭素工具鋼も、一般構造用圧延鋼などのいわゆる普通鋼に比べ‘入念に’作られるという観点から、同様の炭素鋼でありながら、特殊鋼に分類されている。特殊用途鋼との違いに注意。
- 特殊用途鋼
- ある特定の用途に使用することを目的として開発された鋼種。JIS記号の2文字目にSpecial Usedを意味する‘U’が付く。
→ばね鋼
→高炭素クロム軸受鋼
→快削鋼
→ステンレス鋼
→耐熱鋼
- トルースタイト
- 焼入れした構造用鋼を概ね400〜500℃で焼戻しすることによって得られるフェライトとセメンタイトの微細粒状組織。発見者が師の名前にちなんで命名したそうで、私がもし弟子を持つようなコトがあれば、こんな弟子になってほしいものだ。焼入れにより炭素を過固溶させたマルテンサイトから、高温焼戻しによって炭化物を細かく析出させたもの。ソルバイトよりさらに細かな組織となり、強度 (引張強さ·降伏点·硬さ) が高く、靭性 (衝撃値) はやや劣る。錆が発生しやすい。
→焼戻トルースタイト
あ
か
さ
た
な
は
ま
や
らわ
他
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- ナイトライド
- →窒化物
- 内部応力
- 外力によるものではなく、素材内部に存在する応力。材料力学の立場では解析対象となる物を理想化 (完全均質と見なす) した上で数式を適用して解析を進めるが、実際の製品は内部に様々な力学的アンバランスを含んだまま現在の形状を維持している場合があり、このような外観だけからは判断できない応力のこと。熱処理においては様々なトラブルの要因となり得る。
- 軟化焼なまし
- 硬さを減じること (だけ) を目的とした低温焼なまし。「軟化」という定義からすれば完全焼なましや球状化焼なましもここに含まれるように見えるが、熱処理用語としてはこれらを除くものと判断して差支えない。
- 軟鋼
- 鋼の炭素量による分類において、比較的炭素量の低い鋼に対する用語。炭素量が概ね0.3%以下のものを示す場合が多い。JISには炭素量0.22%までの"軟鋼線材"が規定されている。→硬鋼
- 軟窒化
- 硬化を主目的とせず、耐摩耗性や耐疲労性、耐食性などの性質を付与する窒化のこと。ガス軟窒化と塩浴軟窒化とがあり、塩浴軟窒化はタフトライドの商品名でも知られる。処理雰囲気によっては窒化と同時に浸炭もされるため、浸炭窒化の別称とする向きもある。表面硬さがやや低めなので‘soft nitriding’と呼ばれるのを直訳で「軟」窒化としているが、決して「軟化」処理ではない。
- 軟点
- 硬さを得ることを目的とした熱処理において、周囲に比べて明らかに硬さが不足している部分。外観からは不具合を判断できないまま製品化されるケースが多く、機械的性質の局部的な不足がトラブルの原因となることがある。質量効果の影響で必要な硬さが得られない場合以外にも、組織的な原因 (局部的に低炭素化していたり、黒皮部分で冷却速度が不足してるなど) や工程的な原因 (熱影響が及ぶ範囲の別工程による加熱での軟化など) もあり、根絶には様々な工程管理が必要となる。
- 二次硬化
- 焼戻温度の上昇に反して硬さが増す現象。一般には焼戻温度が高いほど処理品の硬さは低下するが、一部の高合金鋼において焼戻温度を上げていくと硬さの低下が止まり、逆にやや上昇する現象が見られる。例えば熱間ダイス鋼のSKD61は焼入れで55HRC程度の硬さになり、300℃までの焼戻しでは50HRC程度まで徐々に低下するが、400℃を越えると焼戻温度の上昇に伴って硬さが増し、500〜530℃で55HRC近くまでになる。その後は焼戻温度が高くなるにつれ硬さも低下する。高温加熱による炭化物析出で低炭素化した残留オーステナイトが、冷却時にマルテンサイト化する (炭素量が低いほどMs点が上昇する) ためと考えられ、当然ながら残留オーステナイトの発生しない鋼では見られない現象。二次硬化を伴う高温焼戻しでは、新たに発生したマルテンサイトに対する焼戻しを必要とするため、2回以上の繰返し焼戻しを行うのが一般的。
- 二次焼入れ
- 浸炭処理品の表面組織硬化を目的とした焼入れ。表面部は高炭素なため焼入温度は一次焼入れより低い。
→一次焼入れ
→直接焼入れ
- 二次焼戻脆性
- 高温焼戻脆性のひとつ。機械構造用合金鋼でよく見られ、高温焼戻しの際に500℃前後の温度域で冷却が遅いと靭性が低下する現象。
→一次焼戻脆性
- 二相系ステンレス鋼
- →オーステナイト-フェライト系ステンレス鋼
- 日本工業規格
- 日本における工業製品の標準化·高品質化·合理化等を目的として制定される規格群。
- ヌープ硬さ
- 硬いものほど変形しにくいことを利用した硬さ測定方法。測定対象に一定の荷重で菱形ダイヤモンド圧子を押付け、できたくぼみの表面積と荷重値から算出する。荷重値が異なっても (理論上は) 同じ測定値が得られる。くぼみ測定に光学系を使用するため、レンズの収差を考慮してくぼみのサイズが視野の7割程度に収まるようにするのが良い (くぼみが大きすぎる場合は荷重を軽くする)。ビッカース硬さと試験内容が似ているが、菱形の長対角線を表面積算出の根拠とするため押込み深さが浅くても良好な測定値が得られ、非常に薄い表面硬化層の硬さ測定などに利用される。
- ねずみ鋳鉄
- フェライトと片状黒鉛からなる代表的かつ一般的な鋳鉄。JIS記号FC。断面がねずみ色に見えることからこう呼ばれる。製造工程上、大物部品に向くこと、黒鉛が潤滑材となり耐摩耗性が良好なこと、切削性が良いこと、振動減衰能力が高いことなどにより機械のベース部分によく利用される。
- 熱影響部
- 溶接の際、溶着部周辺が加熱、冷却されて組織変化を起こした部分。焼入れと同様の作用により硬化するため脆くなり、構造物としての信頼性が低下する。炭素当量の低い鋼を使用する、溶接後に熱影響部を加熱して脆さを除くなどの対応が必要。
- 熱応力
- 同一品内に熱的不均衡がある場合、高温部分は熱膨張が大きく低温部分は小さいためにアンバランスが生じた結果として発生する応力。熱処理においては過渡段階における一過性のものなので、徐熱や均熱により、処理品内に過度な温度差が生じないように注意すれば問題になることは少ない。
- 熱間
- 再結晶温度以上の温度帯。
→冷間
- 熱間圧延
- 熱間で行われる圧延作業。
→冷間圧延
- 熱間加工
- 素材を再結晶温度以上に加熱して行う塑性加工。鉄鋼材料の場合、多くはオーステナイト領域にまで加熱して行う。加工硬化、加工歪みは低減できるが、大気中では表面酸化が進むので黒皮が発生する。
→冷間加工
- 熱間ダイス鋼
- 熱間金型用鋼。熱間での鍛造やダイキャストを行う金型の部品材料となる。SKD61が代表的。
→冷間ダイス鋼
- 熱間鍛造
- 熱間で行われる鍛造作業。
→冷間鍛造
- 熱起電力
- 2種の金属線の両端を接続すると、端部の温度差に応じて生じる電位差。これを測定することで間接的に温度が測定できる。
→ゼーベック効果
- 熱処理
- 加熱、冷却操作により、処理品の機械的性質を変化させる処理。狭義には変態点を加熱温度の根拠とするかどうかが処理内容に織込まれている場合を指す。例えば鋼を窒化処理する場合、加熱温度は窒素拡散に必要な温度として決められており、鋼の変態点が処理温度を決定しているワケではない。逆に低温焼なましは変態点以下での処理ではあるが、変態点を超えないからこそ‘低温’と称されるのであって、変態点が処理温度の根拠であるから、狭義においても「熱処理」と呼ぶことができる。一方、広義では加熱と冷却の組合せによって対象物に何らかの変化を与えることを指し、ビールの熱処理 (生ビールかそうでないか)、木材を曲げる際の蒸気加熱処理、ジュエリーの見栄え改善のために行う高温高圧処理なども熱処理に当たるので、これらと区別するためには金属熱処理と言う。
- 熱処理歪み
- 熱処理を行うことにより処理前の形状を留めず変形してしまう現象。加熱時の自重による塑性変形、加熱·冷却段階での熱的不均衡による体積差、熱処理時の変態応力、熱サイクルにおける加工歪みの開放などが要因となる。熱処理による形状変化 (熱処理変形) と寸法変化 (熱処理変寸)。例えば焼入れは一般に体積膨張工程となる) とに分けて論ずる場合もある。熱処理を行えば必ず発生するものなので、高精度部品においてはこのことを念頭に置いた工程設計が必須となる。
- 熱処理変形
- 熱処理による処理品の形状変化。変態応力や加熱·冷却ムラなどにより、例えば平面が反るなど、熱処理前の幾何形状を維持できない現象。
- 熱処理変寸
- 熱処理による処理品の寸法変化。焼入れでは体積が膨張するので寸法が増すことになるが、材料の異方性により伸び率は方向によって異なる (材質によっては寸法が減少する方向もある)。焼戻しによって寸法は減少するが、二次硬化を有する材料では伸びに転ずる温度があったりと、材質によっては複雑な動きを示す。
- 熱電対
- ゼーベック効果により発生する熱起電力を測定し、温度換算するための異種合金対。使用する金属線材によりカバーする温度範囲が異なる。作業現場では温度センサと呼ばれていることもある。
- 熱浴焼入れ
- 処理品を適当な温度に保持した熱浴 (溶融塩 (ソルトバス) が一般的だが溶融金属 (メタルバス) や油などを使用することもある) を冷却剤として等温保持し、引上げて空冷する焼入れ。
- 燃焼炉
- 燃料を燃やした熱で加熱するタイプの炉。燃料にはLNGやLPGなどの気体燃料や、灯油、重油などの液体燃料が使用される。炉内で直接燃焼させると炉内雰囲気が燃焼に左右されるため、ラジアントチューブ内で燃焼させ、熱だけを炉内に伝える構造とするのが一般的。大型炉への適用が多い。温度制御の難しさが問題となるが、近年では精密コントロールが可能になり、また燃焼効率の改善、公害対策の進展、廃熱利用などメリットも多く、電気抵抗炉から燃焼炉への置換えも行われている。
- ノーズ
- 等温変態曲線 (S曲線) において、パーライト変態を示す線が温度低下に従って短時間側にずれる部分が、横から見た鼻のシルエットに似ていることからこう呼ばれる。‘S’の1つめのカーブ部分に当たる。
- ノーズ温度
- 等温変態曲線において、パーライト変態開始点が最も短時間側にある温度。等温焼なましでの等温保持温度を決める際の参考となる温度。ノーズ温度より上で等温保持した場合はパーライト変態が起こり、下で等温保持するとベイナイト変態が起こる。
- ノジュラー鋳鉄
- →球状黒鉛鋳鉄
- 伸び
- 引張試験において試験前の標点間距離からどれだけ伸びて破断したかを表す比率。一般に軟らかい (展延性の高い) 材料ほど数値が大きい。→絞り
- ノルテン
- 焼ならし後に硬さ調整のため焼戻しを行うこと。normalizing + temperingによる造語。
あ
か
さ
た
な
は
ま
や
らわ
他
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- バーニング
- 過熱状態に曝された処理品が、熱処理等によってでは元の状態を回復できなくなること。
- パーライト
- フェライトとセメンタイトの層状混合組織。冷却速度が速いほど微細な組織となる。肉眼観察において真珠光沢を呈するためにこう呼ばれるそうだが、私は真珠っぽく見えたことがない (確かに鋳鉄の切削面がザラついて見えるのに比べれば艶っぽいが)。ちなみに鉱物分野でも同じ用語が登場するので混同しないように。また、‘艶’にまつわる商品名で採用されているコトもある。
- パーライト可鍛鋳鉄
- 白銑を黒鉛化焼なまししてパーライトと黒鉛に分解した可鍛鋳鉄。強靭鋳鉄のひとつで、黒心可鍛鋳鉄に比べ強度は大きいが粘り強さはやや劣る。
→黒心可鍛鋳鉄
→白心可鍛鋳鉄
- パーライト変態
- 高温組織の冷却過程においてA1点を下回った際に起こる変態。→共析変態
- バーンアウト
- 空焼きを行い炉内の不要物を焼き出す処理。特に浸炭炉ではスーティング (遊離炭素のスス) を除去するため、炉内に酸素導入して行う。炉内温度測定に用いられる熱電対が熱サイクルのダメージにより焼き切れる不具合もこう呼ばれることがある。
- ハイス
- 高速度工具鋼 (High-speed tool steel) の俗称。
- 灰銑
- ねずみ鋳鉄、ねずみ銑などとも言う。比較的凝固スピードが緩やかな状態で固まった鋳鉄で、黒鉛が晶出し灰色に見えることからこう呼ばれる。
→白銑
→まだら銑
- ハイテン
- 高張力鋼 (High-tensile strength steel) の俗称。
- 白心可鍛鋳鉄
- 白銑を酸化雰囲気内で900〜1000℃の高温に加熱し、表面を脱炭させることで粘り強さを与えた可鍛鋳鉄。強靭鋳鉄のひとつであるが、肉厚の物になるほど芯部まで脱炭し切らずにパーライトや黒鉛が残った組織になる。
→黒心可鍛鋳鉄
→パーライト可鍛鋳鉄
- 白銑
- 白鋳鉄とも呼ばれる。比較的凝固スピードが速い状態で固まった鋳鉄で、黒鉛が晶出せず、レデブライトを経過してパーライトとセメンタイトの混合組織となる。
→灰銑
→まだら銑
- 刃状転位
- →刃状転位 (じんじょうてんい)
- 箱焼なまし
- 密閉容器中で酸化スケールの発生を抑制した焼なまし。
- 肌焼
- 浸炭焼入れの別称。処理品全体を加熱、冷却しながらも表面 (肌) のみが硬くなるためこう呼ばれる。
- 肌焼鋼
- S15CKやSCM415などの浸炭焼入れされることを前提とした鋼材。
- バッチ炉
- カゴ積みなどでひとまとまりとした製品を処理するタイプの炉。全ての処理品が同時に加熱、冷却される。
→連続炉
- ハッドフィールド鋼
- 高マンガン鋳鋼の別称。研究者の名前から。
- パテンチング
- オーステナイト化した共析組成付近の鋼を溶融鉛槽などで急冷、保持し、一部ベイナイト化した微細パーライト組織を得る操作。結晶粒が微細な上に加工性が良いため、冷間成形ばねの引抜加工前熱処理として利用される。細径の場合は引抜加工とパテンチングを繰返し複数回行い、所定の線径にまで引抜を行う。
→ピアノ線
- 鼻
- →ノーズ
- ばね鋼
- 板ばね (トラックの後輪にショックアブソーバとして取付けられているのをよく見かける)、コイルばね (こちらは乗用車のアブソーバ)、トーションバー (自動車での利用はスタビライザなど) 等に利用される、炭素量が共析点付近の炭素鋼または合金鋼で、JIS記号はSUP。熱処理することを前提としており、比較的大型のばねに使われる鋼材。ばねと言うと軟らかいイメージがあるが、ばねの弾力性は形状によって得られる性質であり、材料的には高強度であること (というより高弾性限であること) が求められる。硬さが必要なため、焼戻しは構造用鋼の調質に比べてやや低い温度を採用する。またばね鋼の用途例として、スパナやドライバーなどの手工具もモーメント荷重に対する強度、硬さによる耐摩耗性などからSUPを利用している。広義には冷間成形の小型ばねに使用されるピアノ線や硬鋼線も含まれるが、こちらは加工硬化 (または加工硬化+ブルーイング) で所定の硬さを得ており、焼入焼戻し機構による強化ではない。
- 針状ベイナイト
- →針状 (しんじょう) ベイナイト
- 針状マルテンサイト
- →針状 (しんじょう) マルテンサイト
- 半冷時間
- 空冷でも焼きが入るような鋼ではジョミニー曲線がなかなか下降せず焼入性の比較が困難なため、焼入温度と室温との中間の温度になるまでの時間で評価する。半冷時間が長くても焼入れ可能な鋼は焼入性が良い。
- ピアノ線
- 0.6%以上の高炭素鋼線材をパテンチング処理と冷間引抜加工によって高強度鋼線としたもの。見た目は針金 (軟鋼) と変わらないが、手で折り曲げてみると全く違うことが実感できる。ピアノの弦に使われたことからこう呼ばれるが、バネやタイヤなど、ピアノとは関係ない分野での使用も多い。元々は特殊な合金元素を含む高級鋼ではなく、やや炭素量の多いフツーの炭素鋼であるにも関わらず、引張強さでいえばSS材の3〜5倍以上と、材料性能は成分だけではなく製造工程が重要であることを教えられる鋼材と言える。製造上の特徴から細径のものほど引張強さが高く、故に表面脱炭などの規制も厳しい。身の回りにあるバネの多くがピアノ線で作られていると考えて構わない。
- ヒートチェック
- 加熱と冷却の繰返しで表面に生じる熱亀裂。熱間ダイス鋼製品のように、ヒートショックが繰返される熱疲労の大きな用途で使用されるもので問題となる。熱間性能を向上させる合金添加を行ったり、偏析を少なくする工夫 (真空脱ガス法やESR法による製鋼など) によって長寿命化が図られる。
- 引上げ焼入れ
- 焼入れの際、完全に冷却が終了するまで冷却剤に沈めるのではなく、適当な温度で引上げる焼入れ方法。製品内部潜熱により復熱し、危険区域 (Ms点とMf点の間) をゆっくりと冷やす時間焼入れの、作業方法による別称。
- 非金属介在物
- 金属材料中に不純物として介在した酸化物や窒化物、珪酸塩類などの無機化合物。機械的性質に悪影響を及ぼし、特に疲労特性に対し有害となるため、一般には少ないことが、また偏析すると部分的に弱くなるため全体に極微状態で散在させることが望ましい。逆に非金属介在物の脆さを利用した例として快削鋼がある。
- 微細化
- →結晶粒の微細化
- 微細パーライト
- 通常の焼なまし組織として観察されるものよりも結晶粒が微細なパーライト。冷却速度が速いほど結晶粒は微細化するので、焼入れ機構の利用できない低炭素鋼などでは焼ならしによって結晶粒を調整し機械的性質を改善する方法が採られる。以前は焼ならしで得られる微細パーライトと、調質によって得られるソルバイトやトルースタイトを同じ呼称で扱う向きもあったが、組織生成メカニズムは明らかに違うので、本来区別されるべき物と言える。
- 非晶質
- →アモルファス
- 歪取焼なまし
- 応力除去焼なましの別称。格子歪みなど、組織の乱れを改善して内部応力を低減することを目的としているためこのように呼ばれる。形状的な不具合を除去するワケではない。
- 非調質鋼
- 調質を行わずに使用される構造用鋼。特定の元素を少量添加 (マイクロアロイ) した上で圧延や冷却をコントロールすることによって所定の機械的性質を得た鋼材で、機械加工した後の熱処理が不要になる。調質処理した鋼までには機械的性質が及ばない部分もあるものの、コストダウン、省エネ、リードタイム短縮、歩留り向上などのメリットがある。調質済みの素材を機械加工して製品化する場合とは異なる点に注意。
→調質鋼
- ビッカース硬さ
- 硬いものほど変形しにくいことを利用した硬さ測定方法。測定対象に一定の荷重でダイヤモンド角錐圧子を押付け、できたくぼみの表面積と荷重値から算出する。荷重値が異なっても (理論上は) 同じ測定値が得られる。くぼみ測定に光学系を使用するため、レンズの収差を考慮してくぼみのサイズが視野の7割程度に収まるようにするのが良い (くぼみが大きすぎる場合は荷重を軽くする)。軟らかいものから硬いものまでオールマイティな測定が可能。ただし圧痕が小さいので、硬さにバラツキのある製品には向かない。逆に硬さのバラツキを測定することが目的であれば、ビッカース硬さでの測定が必須で、ジョミニー式一端焼入法によるHカーブ取得や硬化層深さの測定に用いられる。より細かく測定するために、1kg以下の微小荷重を用いるマイクロビッカース硬さ試験機もある。
- ピッチング
- →孔食
- 引張残留応力
- お互いに引合う状態の残留応力。表面に引張残留応力が残っている製品は耐疲労性や耐摩耗性が悪化する。
→圧縮残留応力
- 引張試験
- 試験片を軸方向に引張り、荷重と試験片の変形との関係を測定して材料の静的荷重に対する諸性質 (引張強さ·降伏点·耐力·伸び·絞り) を得る試験。
- 引張強さ
- 材料の引張試験における最大荷重を、試験片の元断面積で除した値。材料の機械的性質の中で最も代表的なもので、この値を超える応力を受けると材料は破断する。
→降伏点
- 非鉄金属
- 鋼などの鉄基合金以外の金属材料。アルミニウム合金、銅合金、チタン合金、マグネシウム合金等。銅合金は、その独特の色から「色物」とも呼ばれる。
- 火花試験
- 鉄鋼材料を回転砥石に押付けた時に発生する火花を観察することで、材料の組成を判断する試験。熱処理現場では適正な条件で処理したにも関わらず硬さが異常である場合の材質確認として、加工現場ではデッドストックとなっている材料を使用する場合の材質確認として行われることが多い。
- 冷し嵌め
- 軸部品を冷して熱収縮で小さくなった軸に穴を通し、そのまま常温に戻して結合させる締結方法。焼嵌めと逆の原理で行う永久結合であるが、加熱で膨張させるより冷却で収縮させるほうがコストアップとなるので、穴部品が加熱できない場合など特殊な条件下で行われる。
- 標準組織
- 均一オーステナイト状態からゆっくりと冷却して得られる、平衡状態図に沿った組織。マルテンサイトやベイナイトなど平衡状態図に現れない組織を含まず、亜共析鋼では初析フェライト+パーライト、過共析鋼では初析セメンタイト+パーライトとなる。
- 表面粗さ
- 金属部品の表面は平坦に見えても微視的には凸凹が存在し、このような表面状態を数値化したもの。例えば砂型鋳造品の表面は見るからにザラザラしていて粗いことが解る。切削加工したものは平らに見えるものの、工具の走った後が筋状になって刃先形状が転写されていることが想像でき、研削仕上げすれば表面粗さはかなり小さいものの、まだ砥石の当たった方向が見て取れる。バフ研磨まですれば鏡面を呈し、肉眼では凸凹を感じないが、測定すると粗さがゼロになっているワケではない。表面粗さは耐疲労性、耐摩耗性、焼割感受性などに影響する。
- 表面硬化
- 処理品の表面が硬く、内部は表面より軟らかい状態。
- 表面硬化処理
- 製品表面のみを硬化させることを目的とした様々な処理方法の総称。表面の機械的性質が製品性能や製品寿命に与える影響は大きく、表面のみを対象とする処理は多種多様なものが実用化されている。例えば防食を目的としたメッキの場合、表面さえ腐食しなければ内部も腐食が進行しないので内部まで腐食しにくくする必要はないと言える。同じように耐摩耗性や耐疲労性など、表面だけ硬くすれば製品寿命が向上する事例は数多く存在する。高周波焼入れなど、熱処理によって表面硬化層を得る場合は特に表面硬化‘熱’処理と呼ぶこともある。
→高周波焼入れ
→炎焼入れ
→レーザー焼入れ
→浸炭焼入れ
→窒化
→軟窒化
→タフトライド
→ショットピーニング
→WPC
- 表面焼入れ
- 製品表面のみに施す焼入れ。表面は硬く、芯部は変化させないことにより、耐摩耗性や耐疲労性を向上させる。浸炭焼入れは表面のみ硬くさせる熱処理ではあるが、全体加熱処理であり、表面焼入れではない。
→高周波焼入れ
→炎焼入れ
→レーザー焼入れ
- 疲労
- 金属材料が「疲れる」と表現するのは違和感を感じるが、小さな荷重を繰返し与えられることであるとき突然破壊する様子を見ると、まさに疲れがたまった結果のようにも見える。目の前にある使用中の部品が今どの程度疲労しているかを知ることは事実上不可能であり、疲労が問題になる機械部品については寿命計算と総使用時間で管理するのが一般的。
- 疲労曲線
- 疲労破壊に至る荷重と、負荷を与えられた回数との関係を示した線図で、ウェーラー曲線、S-N曲線とも呼ばれる。縦軸に応力、横軸には繰返し数を対数目盛で取り、ある荷重において何回の繰返しで疲労破壊したかを記録していくと、当然ながら負荷が大きいほど少ない繰返し数で破壊するが、応力がある一定値以下では無限 (鋼の場合N=107と言われる) の繰返し数でも破壊しない。つまり線図としては右下がりの後水平になる。このような応力以下の負荷を許容荷重とすれば、その製品は事実上疲労破壊しない。
- 疲労限
- 繰返し荷重が無限回負荷されても疲労破壊しない荷重上限値。鋼の場合、107回の繰返し荷重に耐えれば無限回の負荷でも疲労破壊しないと言われる。
- 疲労破壊
- 許容荷重より小さな荷重であっても、周期的に負荷が繰返し与えられることにより材料が疲労し、製品表面で発生したクラックが成長して破壊に至る現象。繰返し荷重を受ける部材は安全率を静荷重の場合に比べ倍程度にしなければならない (更に衝撃荷重の場合3〜4倍となる)。また亀裂の発生源となりやすい部分の応力集中を避けるため大きなRを付けたり、ツールマークによる大きな表面粗さを小さくするような仕上げ加工を施すなどの他、高周波焼入れやショットピーニング等の、製品表面に圧縮残留応力を与えられるような処理を施すのも抑制効果が大きい。延性材料でもほとんど塑性変形を伴わず破壊に至るため危険な壊れ方であり、事前に察知することが難しい。防止策として厳密な部品交換管理と定期点検が重要になる。
- ブードア反応
- 気体浸炭のメカニズムを説明する基本式で、名称は研究者の名前に由来する。C+CO2=2COで表される可逆反応で、二酸化炭素が炭素源で反応して一酸化炭素となり、それが処理品表面で炭素を奪われ二酸化炭素に戻るサイクルを繰返す。
- フェライト
- α鉄固溶体の別称。純鉄では911℃以下に冷却するとフェライト化する。炭素固溶限が0.0218%と、常温ではほとんど炭素を固溶しない。このため炭素量が0.02%以下の鋼を工業用純鉄という。ラテン語で‘鉄’を表すferrumにちなんだ名称とされ、鉄の元素気号である‘Fe’も同様であるが、磁性材料となる酸化鉄もフェライトと呼ばれる (フェライト磁石なんて言いますよね) ため混同に注意。
- フェライト系ステンレス鋼
- Niを添加せず、常温でオーステナイト組織とはさせずに、高Cr化と低炭素化とで耐食性を持たせたステンレス鋼。耐食性ではオーステナイト系ステンレス鋼に及ばないものの、冷間加工による組織変化がなく、加工後の固溶化熱処理を必要としない。加工性や溶接性もまずますで用途が広く、自動車部品や化学工業分野などで利用される。熱処理は焼なましを行う程度。
- 不完全焼入れ
- 焼入れ時の加熱温度不足、加熱保持時間不足、冷却速度不足、質量効果などの理由によりマルテンサイト化が不充分で、組織にパーライトやベイナイトが混ざった状態となったもの (残留オーステナイトの発生によりマルテンサイト化に至らないものは含まない)。必要な硬さが得られないなどの焼入れ不良に繋がる。尚、構造用鋼の調質においては、芯部で50%マルテンサイト化がなされていれば良いとしている (特に合金元素を含まない炭素鋼では、よほど細径の物でないと完全焼入れとはならない)。焼入れ時の硬さが低くても、その分焼戻し温度を下げることで、要求された硬さを実現できる場合もあるが、引張強さ以外の機械的性質に悪影響が出るため、このような措置は採るべきではない。
- 不規則格子
- 合金を構成する原子が不規則に配置している結晶格子。原子が規則的に配置するほうが低エネルギー状態であるため、結晶格子は基本的に規則格子化したがるが、加熱により熱振動エネルギーが増すと規則配列が乱れて不規則格子となる。
- 復炭
- 熱処理により表面が脱炭した処理品の炭素量を回復するため微浸炭を行うこと。
- 複炭化物
- 複数の金属元素を含む炭化物。
- 普通鋼
- 炭素以外に特殊な合金添加を行わない低炭素鋼であり、SS材を指すと考えて差し支えないが、何をもって‘普通’と称するのかイマイチ定かではない。尚、JISでは機械構造用炭素鋼 (S-C材) は特殊鋼として扱われている。身の回りにある形鋼、帯鋼、棒鋼、薄板などの殆どが普通鋼。
- 不動態
- 化学的に活性な物質がある条件化で不活性に転じたもの。例えばアルミニウムは非常に酸化されやすい (実はロケットブースターの固体燃料にも使用されるくらい燃えやすい) が、空気中で表面が酸化すると不動態化した酸化皮膜がそれ以上の酸化を阻み、結果的にアルミニウムは酸素に対する活性は高いものの、空気中では非常に腐食されにくい金属となる。一方で鉄の酸化物は不動態化せず、錆が触媒となって更に腐食が進む。
- 不動態膜
- 金属の酸化皮膜などが不動態化したもの。不動態膜の内部は化学的な変化から守られるため、腐食しにくくなる。
- 部分焼入れ
- 局部焼入れ、局焼とも。処理品の一部分のみを焼入れによって硬くすることで、硬さと粘り強さを1つの部品で併せ持たすことができる。
→高周波焼入れ
→炎焼入れ
→レーザー焼入れ
- プラズマ窒化
- →イオン窒化
- ブリネル硬さ
- 硬いものほど変形しにくいことを利用した硬さ測定方法。測定対象に一定の荷重で鋼球圧子を押付け、できたくぼみの表面積と荷重値から算出する。鋼球が摩耗して寸法や真円度が狂うと測定値に影響を与えるので、圧子の管理が重要。比較的軟らかいものを測るのに向いており、また圧痕が大きいので硬さの局部的な違いがあっても平均化されることから、素材の焼なまし硬さ測定などに利用される。
- ブルーイング
- 冷間成形ばねで弾性限を高くするために青熱脆性の温度帯 (引張強さが局大となる) で加熱する処理。酸化被膜で紫色に着色するためこのように呼ばれる。
- ブルズアイ
- 球状黒鉛鋳鉄の組織観察で、丸い黒鉛の周りに低炭素のフェライト、基地がパーライトという組織が目玉のように見えることからこの名前 (雄牛の目の意) がある。
- フレームカーテン
- 雰囲気熱処理炉において処理品を出し入れする際に外気遮断のため開口部を炎で覆うこと。
- フレームハード
- アセチレンバーナーなどで部分的に温度を上げ、加熱を止めると母材吸熱による急冷で焼入れされる熱処理。
- フレームハード鋼
- フレームハード用に開発された工具鋼。大物金型の部分焼入れなどに利用される。
- プレスクエンチ
- 冷却用の金型に挟込んで行う焼入れ。矯正された状態でのマルテンサイト変態により、変形のない焼入れが可能。→ダイクエンチ
- プレステンパ
- 加圧焼戻し。焼入変形を矯正する目的で処理品を治具に挟み込んで行われる。
- プレス焼入れ
- →プレスクエンチ
- プレス焼戻し
- →プレステンパ
- 雰囲気
- 熱処理において「雰囲気」という単語は処理品が置かれた周囲の流体 (または流体の性質) を示す。「窒素ガス雰囲気で焼戻し」と言えば炉内に窒素を導入して焼戻しを行うということになるし、「浸炭雰囲気で加熱して焼入れ」と言えばカーボンポテンシャルの高いガス気流中で加熱するということになる。
- 雰囲気ガス
- 雰囲気調整熱処理に使われる炉内導入ガス。目的に応じて不活性ガス、浸炭性ガス、窒化性ガスなどが利用される。
- 雰囲気調整熱処理
- 炉内に雰囲気ガスを導入して行う熱処理。ガスの調整によって処理品に色々な性質を付与できる。酸化や脱炭を防いだ熱処理や、浸炭焼入れなどに利用される。単に雰囲気熱処理と言われることが多い。
- 雰囲気熱処理
- →雰囲気調整熱処理
- 噴射焼入れ
- 加熱した処理品表面に冷却剤を噴射して行う焼入れ。蒸気膜段階がない、新液が次々に供給される、などの理由により浸漬冷却に比べて冷却速度が速い。
- 粉末ハイス
- パウダーメタルから粉末冶金によって製造されるハイス。結晶粒を非常に細かく管理できるので、機械的性質の良好な高靭性工具を作ることができる。
- 粉末冶金
- パウダーメタル (金属微粉末) を圧縮成型して金属材料を製造する方法。超硬合金や粉末ハイスなどの製造方法として利用される。複雑形状の量産工具製造における廃棄量低減 (複雑になるほど切屑として捨てる部分が増える) のため工具鋼に適用される例も増えてきている。
- 噴霧冷却
- 冷却剤を霧状に噴霧した中での冷却。油冷程度から空冷相当まで、冷却速度の任意調整が可能。
- ヘアクラック
- →毛割れ
- ベアリング鋼
- 高炭素クロム軸受鋼の俗称。
- ベイ
- 等温変態曲線 (S曲線) において、パーライト変態の最短開始点であるノーズを過ぎると、ベイナイト変態の開始点が温度低下に従って長時間側にずれる現象を、海岸線における‘入江’に見立ててこう呼ぶ。‘S’の2つめのカーブ部分に当たる。
- 平衡状態図
- 平衡状態において、温度と成分によって合金に安定して現れる相の様子を図示したもの。‘平衡 (へいこう) ’とは釣合いが取れていること、静止して安定的なこと、エネルギーの出入りがないことなどを表すが、金属材料の平衡状態図では熱平衡、すなわち熱量が変化しない状態を指す。つまり平衡状態図に現れる相は「その温度に長時間保持された時に見られる相」ということになり、加熱·冷却の過渡段階で発生するマルテンサイトのような準安定組織は登場しない。各線で区切られた領域は同一の相であり、領域を区切る線は相変化点 (変態点) を示す。ただし保持時間や温度によって結晶粒度は変化するので、「均一オーステナイト状態から急冷して焼入れせよ」と言った場合も、加熱温度が高すぎるとオーステナイト結晶粒が粗くなり、機械的性質に影響が出る。
- 平衡炭素濃度
- →カーボンポテンシャル
- ベイナイト
- オーステンパによって得られるフェライトとセメンタイトの混合組織。ただしここで得られる組織内のフェライトは、通常のものよりやや炭素を多く固溶しており、ベイナイト組織はマルテンサイトとパーライトの中間的な性質を持つ。焼入れと同様に、等温変態曲線のノーズ部分に掛からない冷却速度が必要なので、ベイナイト組織を利用できる鋼種や製品サイズには制限があり、主に共析組成付近の炭素鋼で比較的小さな物に限られる (大物では等温保持温度までの冷却速度が遅れがちで、ノーズに掛かればパーライト化してしまう)。等温保持温度によって観察される組織に違いが見られ、上部ベイナイトと下部ベイナイトとに分類されるが、機械的性質の有用さから、工業用途では下部ベイナイトをターゲットとする場合が多い。焼入焼戻しによって同じ硬さにしたものと比較すると、引張強さは同等なものの衝撃値など他の性能で優れた面が見られる。合金元素として炭化物生成元素が添加されると、パーライトの鼻の下にベイナイトの鼻が現れ、このような合金鋼では冷却速度によっては連続冷却過程でも組織にベイナイトが出現するが、こうして得られるベイナイトは、一般に冷却速度不足による不完全焼入れ扱いとなる。名称は研究者の名前に由来する。
- ベイナイト焼入れ
- オーステンパの別名。厳密に言えば「焼入れ」ではないが、処理の結果として硬さの高いベイナイトが得られるためこう呼ばれる。
- ベーキング
- 酸洗いなど処理品内部に水素侵入の可能性がある工程の後、適当な温度に加熱して水素を追い出す処理。水素脆性防止のための必須工程で、ちゃんとしたメッキ屋さんならベーキング炉を持っているハズ。
- 片状黒鉛
- ねずみ鋳鉄に晶出する細長い片状の黒鉛。
→球状黒鉛
- 変成炉
- 雰囲気調整熱処理に使用する雰囲気ガスを生成する炉。光輝熱処理で使用する中性ガスや浸炭焼入れでの浸炭性ガスなど、目的に応じたガスを熱処理炉に供給する装置に当たる。例えば炭化水素ガスであるプロパンなどの原料ガスを変成炉で空気と燃焼させると、N2、CO2、H2Oの混合ガスが得られ、水は結露により、二酸化炭素は吸着によって取除くと、窒素を主成分とした中性ガスが得られる。通常は変成炉1台で数台の熱処理炉をカバーするので、設備構成は大掛かりなものとなる。
- 偏析
- 特定の元素が凝集または欠乏して成分的な不均一を生ずる現象、あるいはそのような状態。例えば溶鋼をインゴットとして冷却する際、外縁部は純鉄に近い組成となり、不純物が内部に集まる傾向がある。
- 変態
- ややヒワイな響きに聞えるが熱処理においては状態が変ることを示す用語 (しかも非常に重要!)。物質の構造変化 (原子配列の変化など) により、性質が変化すること。同素変態。
- 変態応力
- 変態による結晶の変形や体積変化が時間差で生じる際に発生する内部応力 (遅れて変態する結晶は既に変態を追えた結晶によって自由な変態を拘束される) で、熱処理の結果として発生する残留応力の主力 (と言うよりほぼ同義)。処理品冷却の際、表面と内部とでは必ず温度差があるので、特に焼入れでは大きな変態応力が発生する (逆に焼なましは炉冷するため内外温度差が少なく、変態応力は非常に小さく抑えられる)。熱処理変形や変寸、悪くすると焼割れや置割れなどのトラブルを引起す原因となる一方、熱処理によって処理品表面にワザと圧縮残留応力を発生させ、耐疲労性を向上させるといった妙技もある。焼戻しで緩和され、これにより遅れ破壊などを防止できるので、焼入れ後は直ちに焼戻しを行うこと。
- 変態点
- 変態の起こる温度。合金組成などの条件が一定なら、平衡状態における変態点は一定温度となる。変態の種類に応じて複数存在し、allotropic transformation (同素変態) の頭文字を使って“A?点”と記号化される。熱処理分野ではA1変態点を略してこう呼ぶ場合がある。
→A0点
→A1点
→A2点
→A3点
→Acm点
- 防炭
- 部分的に浸炭させたくない箇所に銅メッキを施したり浸炭防止剤 (防炭剤) を塗布することによって炭素浸入を防止すること。
- 放電加工
- 電極と材料との間で放電させ、微小量の除去を繰返す事で電極の形状を転写させるように行う加工。焼入れ処理品を仕上加工するには硬さが障壁となって非常に時間と手間がかかり (研削仕上げや超硬合金刃物による微少切込み加工など)、また加工形状によっては事実上仕上げ加工ができないものもあるが、放電加工であれば硬さに関係なく可能。電極に当たる部分を極細の電線とし、これをX-Y制御で移動させてくり抜き加工を行うワイヤー放電加工 (ワイヤーカット) もある。
- 放冷
- 大気中に放置する (あるいはそれに準ずる冷却速度で冷やす) 冷却方法。→空冷
- 炎熱処理
- アセチレンバーナーなどの炎で直接加熱する熱処理。
- 炎焼入れ
- アセチレンバーナーなどの炎で直接加熱し冷却剤を噴射して急冷することで、部分焼入れを行う方法。表面のみを硬くしたい耐摩耗部品などで利用される。硬さが得られると同時に、処理品表面に圧縮残留応力を発生させるので耐疲労性の向上も期待できる。また一部分のみの加熱、冷却サイクルであるため基本的に質量効果を無視できるので、大物部品の表面焼入れにも利用される。加熱時間が短く温度保持が難しいため、一般的には炭素鋼や低合金鋼が処理対象であり、炭化物を分解するのに時間を要する高合金鋼への適用は難しい。
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- マイクロアロイ
- 熱処理に依らなくても調質鋼並みの強度を実現することを目的に、鋼の機械的性質を向上させるため合金元素を少量添加すること。構造用鋼にNb、Ti、Vなどを添加して圧延やその後の冷却工程を最適制御することで調質による強靭さに迫る性能を持たせている。熱処理工程が不要になることのメリットを狙っている。
- マイクロビッカース硬さ試験機
- ビッカース硬さ試験機は1〜50kgの荷重を段階的 (ビッカース硬さの定義からすれば任意の荷重でも構わないのだが) に選択して硬さ試験を行うのに対して、1kg以下の微小荷重で行う試験をマイクロビッカースと呼ぶ。窪みが小さく狭い範囲の硬さが測定できるので、硬化層深さ測定など硬さの分布を調べる際によく利用される。また押込み深さが小さいため、窒化など硬化層が非常に薄い部分の表面硬さ測定や、製品そのものが薄い場合の利用も多い。荷重が小さいだけで通常のビッカース硬さ試験と何ら変わりはないが、小さな圧痕の輪郭をシャープにしなければ正確な測定値が得られないので、試験面はビッカース硬さ試験のときよりも表面粗さが小さい状態にしなければならず、通常はバフ研磨で鏡面に仕上げる。微小硬さ試験機。
- マスエフェクト
- →質量効果
- まだら銑
- 灰銑と白銑の中間的な混合組織。斑紋に見えるためこう呼ばれる。まだら鋳鉄とも。
- マトリクス
- 金属材料の析出物に対する基地の部分。例えば炭素工具鋼を焼入れした場合はマトリクスであるマルテンサイトに細かな球状セメンタイトが散在する組織とするのが理想的。
- マトリクスハイス
- 工具鋼は高合金化すると炭化物が大きくなる傾向があるが、これを抑制して組織が基地 (マトリクス) のみとなるように製造されたハイス。高靭性工具鋼として各特殊鋼メーカーが開発·販売している。
- マルエージ
- 極低炭素高合金鋼のマルテンサイト組織 (炭素強化機構が使えないため硬くはない) を時効により強化する処理。析出硬化系ステンレス鋼はマルエージング鋼の一種と言える。
- マルクエンチ
- Ms点の直上 (等温変態曲線のベイ部分) あるいはMs点直下まで急冷、等温保持し、処理品の内外温度差がある程度一定になったところで空冷する。ノーズを避けて急冷することによりパーライトやベイナイトの発生を抑えつつ、変態応力によるトラブルを回避することができる。等温保持中にオーステナイトが安定化し、残留オーステナイト量は若干増える。マルテンパとも呼ばれるが、Ms点上で保持する処理をマルクエンチ、Ms点下保持をマルテンパと分ける場合もある。
- マルテンサイト
- 炭素原子を過固溶したα鉄。研究者名に由来する。鉄のα相であるフェライトは炭素を0.02%しか固溶できないが、γ化 (オーステナイト化) した状態では2%程度まで炭素を固溶できる。ここから急冷すると炭素が移動する時間がなく、体心立方格子内に炭素原子を無理に押込んだ状態の組織となり、これをマルテンサイトと呼ぶ。強制的に固溶させられた炭素原子により結晶格子が歪み、更には高密度の格子欠陥を含むため変形に対する抵抗が大きく、高い硬さが得られる。鋼以外でも拡散移動によらない、原子間距離程度の原子移動による格子変態によって得られる中間相をマルテンサイトと呼ぶが、こちらは必ずしも硬い組織ではない。
- マルテンサイト系ステンレス鋼
- ステンレス鋼は耐食性向上のため炭素をできるだけ排除するのが普通だが、炭素がないと焼入れ強化機構は利用できなくなってしまう。そこで防錆能はやや落ちるが、炭素を加えて焼入れ可能としたのがマルテンサイト系ステンレス鋼で、組成としては高合金工具鋼に近い。構造用途では焼入れ後高温焼戻しを行い、強靭化して使用する。これは構造用鋼における調質と同様の処理といえる。また工具用途では焼入れ後低温焼戻しを行い、硬さを保った状態で使用する。身の回りの「錆びにくい刃物」は大抵がマルテンサイト系ステンレス鋼製であり、例えば家庭用の包丁や安全カミソリなどが挙げられる。
- マルテンサイト変態
- 高温組織の下部臨界冷却速度を上回る急速冷却過程において、処理品温度がMs点以下になった際に起こる変態。平衡状態図には表れないマルテンサイト組織を得る。固溶成分が拡散移動することなく変態が進むので無拡散変態とも呼ばれる。
- マルテンサイト膨張
- マルテンサイト変態は基地に溶込んだ炭素が炭化物として析出する事がなく、また多くの格子欠陥を含むため、元のパーライト組織より体積が大きくなる。つまり焼入れした鋼は焼入れ前より必ず膨張している。焼戻しにより炭化物の析出や格子欠陥の減少が進むと、処理品体積は徐々に減少する。
- マルテンパ
- Ms点の直上 (等温変態曲線のベイ部分) あるいはMs点直下まで急冷、等温保持し、処理品の内外温度差がある程度一定になったところで空冷する。ノーズを避けて急冷することによりパーライトやベイナイトの発生を抑えつつ、変態応力によるトラブルを回避することができる。等温保持中にオーステナイトが安定化し、残留オーステナイト量は若干増える。マルクエンチとも呼ばれるが、Ms点上で保持する処理をマルクエンチ、Ms点下保持をマルテンパと分ける場合もある。
- 水焼入れ
- 冷却剤に水を用いる焼入れ。冷却速度は速いが、焼割感受性が高くなるため工業分野ではあまり好まれない。例えばS45Cの場合、JIS規格では水焼入れする事になっているが、焼割れによる歩留りの悪さを回避するため油焼入れを採用するのが一般的 (JISは最良の生産効率まで保証してくれているワケではなく、最良の品質を担保するための規格……と言ってしまうとJIS規格に悪意を持っているように見えてしまうかも)。
- 無拡散変態
- 原子の拡散移動を伴わない (あるいは阻止した) 変態。鋼の焼入れによるマルテンサイト変態は無拡散変態の典型例。格子変態。
→拡散変態
- 無酸化熱処理
- 加熱時の表面酸化を防いで行う熱処理。表面状態に変化を与えなければ光輝熱処理と同義。
→雰囲気調整熱処理
→真空熱処理
- 無心焼入れ
- 内部まで完全に焼きが入り、硬さの内外差がない (U曲線がフラットになる) 状態に仕上った焼入れ。焼入性の良い鋼で中心部の冷却速度が上部臨界冷却速度を越える場合に実現可能となる。逆に言えば炭素鋼では、どんな細径部品であっても理論的に実現不可能 (0秒冷却でもノーズを回避できない) な焼入れと言えるが、表面ほどマルテンサイト膨張するため、表面圧縮残留応力による耐疲労性の向上や焼割感受性の鈍化など、無心焼入れでないが故のメリットもある。一方で純粋な引張強さを向上させるには、表面も中心も同様にストレスメンバーとなるため、無心焼入れであるコトが望まれる。
- 面状欠陥
- 全体として面を成す格子欠陥。結晶内に原子の並びが不規則になる面が存在する積層欠陥のほかに、結晶粒界も面状欠陥のひとつ。
→点状欠陥
→線状欠陥
- 面心立方格子
- 単位格子が立方体で、それぞれの頂点に当たる部分と、立方体の各面中心に原子が一つずつ配列する結晶格子。鉄鋼材料の場合、オーステナイト (β鉄) は面心立方格子となる。塑性変形しやすい構造で非常に細い線や薄い箔に加工できる。他に金、銀、銅、アルミニウムなども面心立方格子を成す。fccと略す。
→体心立方格子
→稠密六方格子
- モース硬さ
- 二つの物質を擦り合せると、軟らかいほうが傷付くことを利用した硬度階。擦り合せによる相対的な硬さの順位を、ダイヤモンドを‘10’、黒鉛を‘1’として階級化したもの。金属製品に適用されることは少なく、専ら鉱物 (宝石など) の硬さ表示に用いられる。ところでダイヤモンドと黒鉛はどちらも「炭素」から成る同素体であり、両者が硬度階の‘最高’と‘最低’における基準となっている点は興味深い。
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- 焼入れ
- 鋼のフェライト組織をオーステナイト化させた後急冷する操作。硬いマルテンサイト組織を得ることを目的としており、処理の派手さや硬さの劇的な変化から熱処理の中では花形に位置する (と、個人的には思っています)。冷却方法は水冷、油冷、空冷や、ソルトバスなどの熱浴冷却等があり、鋼材によって適切な方法を選択する。組織変化が急激なため、様々なトラブルのリスクをはらんでおり、不適切な方法を採ると最悪の場合処理品が割れてしまう。焼入れは必ず焼戻しとセットで行われ、工程に不備があり焼戻しを省略してしまうと、これまた色々なトラブルに繋がる危険性が増してしまう。鉄鋼材料分野では“焼入れ=硬くする処理”と捉えられるが、非鉄金属分野では加熱して急冷する事を総じて「焼入れ」と称し、アルミニウム合金の溶体化処理や銅合金の焼なましなど、鋼の焼入れとは逆に結果としては軟らかくなるものが多い。
- 焼入応力
- 焼入れによる変態応力が処理後に残留したもの。焼入れに伴う変形や、ひどいときには焼割れの原因となる。
- 焼入温度
- 焼入れ直前の最終加熱保持温度。実験室内におけるオーステナイト化温度と同義。焼入温度が低過ぎると充分な硬さが得られず、逆に高過ぎると結晶粒の粗大化によって脆くなるため、適正な温度範囲で保持する必要がある。
- 焼入硬さ
- 焼入れした後、焼戻しに移る前の処理品硬さ。二次硬化が大きく現れる鋼種を除いた総ての鋼で最大の硬さを示す。
- 焼入強烈度
- →H値
- 焼入急冷度
- →H値
- 焼入硬化層
- 焼入れによって硬化した部分。高周波焼入れや炎焼入れなどの表面焼入れにおいては焼入硬化層の硬さや深さをコントロールすることが目的となる。単に硬化層とも呼ぶ。
- 焼入硬化層深さ
- 限界硬さを上回る焼入硬化層の表面からの垂直距離。単に硬化層深さとも呼ぶ。
- 焼入性
- 焼入れによる硬化のしやすさ。「焼入性が良い」とは「大きなものでも芯まで硬くなる」「冷却が緩やかでも硬くなる」「質量効果が小さい」「臨界直径が大きい」「臨界冷却速度が遅い」「ジョミニー曲線の下降が緩やか」「U曲線が平坦」などと言い換えることができる。ただし「硬さ測定値が大きいものほど焼入性が良い」とは言わない。鉄鋼材料において焼入硬さは炭素量に支配されるものであり、その得られるべき硬さが冷却の遅くなる範囲においてでも、どれほど容易に実現できるかが焼入性の良し悪しとなる。つまり焼入性の良い鋼材ほど深焼きとなる。
- 焼入性曲線
- →ジョミニー曲線
- 焼入性倍数
- 鋼にある合金元素を一定量添加した場合の理想臨界直径と、全く添加しない場合の理想臨界直径との比。どの程度焼入性が向上するかを表す指数。「○○を□□%添加した場合の焼入性倍数は△△」というように表現する。焼入性倍数が1以上の合金元素は焼入性を向上させる。
- 焼入性バンド
- 同一鋼種であっても化学成分や結晶粒度によって焼入性曲線が完全に一致することはなく、このバラつきの範囲を帯状に示したもの。Hバンドとも言い、Hバンドが一定範囲内にあることを保障した鋼をH鋼と呼ぶ。
- 焼入歪み
- 焼入れによって処理品の形状 (焼入変形) や寸法 (焼入変寸) が変化する現象。焼入れを行えば必ず発生するものなので、高精度部品においてはこのことを念頭に置いた工程設計が必須となる。
- 焼入変形
- 焼入れにより処理品に発生する変形。大部分は変態応力による変形だが、処理品の置き方によっては加熱のアンバランスや自重によって首を垂れるような変形も起こる。
- 焼入変寸
- 焼入れ時の変態応力により処理品の寸法が変化する現象。熱膨張では処理前温度に戻れば寸法も復元するが、焼入れは体積膨張を伴うため、一般に寸法が増加する。圧延された金属材料は異方性を持つので、方向により寸法増加率は異なる。
- 焼入焼戻し
- 焼入れと焼戻しは必ずセットで行われるので合わせてこのように呼ぶ。また調質を示す別の用語として用いられることもある。
- 焼なまし
- 主に軟化や組織調整を目的とした加熱冷却操作。目的によっては変態点以上に加熱しない処理もある。単に「焼なまし」と言う場合は多くが完全焼なましのことを指す。
→完全焼なまし
→等温焼なまし
→球状化焼なまし
→拡散焼なまし
→黒鉛化焼なまし
→可鍛化焼なまし
→低温焼なまし
→応力除去焼なまし
→中間焼なまし
→軟化焼なまし
- 焼ならし
- 均一オーステナイト領域まで加熱し放冷 (大型の処理品では衝風冷却) する操作。焼入焼戻しによる機械的性質改善が適用できない鋼に施される。例えば低炭素鋼の場合、焼入れの効果が小さいが焼ならしにより組織を均一微細化させることで機械的性質が安定する。また炭素量が少なく、焼なましでは軟らか過ぎて切削時にむしれが生じるような場合は、焼ならしで適度な硬さを与えてやると切削性が改善される。鍛造品や鋳造品の不均一組織の改善や残留応力の除去にも有効。鍛造品や鋳造品は大型部品に適用されがちで、これを例え高炭素鋼で作っても、質量効果により焼入れの効果は得にくいが、焼ならしであればある程度の硬さが得られ、性質の内外差や変形を少なくできる。焼ならしで想定以上の硬さとなった場合は焼戻しで硬さを調整することがあり、これをノルテンと呼ぶ。
- 焼嵌め
- 穴を持つ部品を熱して熱膨張で大きくなった穴に軸を通し、そのまま冷やして結合させる締結方法。非常に強力な永久結合で、大きなトルクのかかる部分や、信頼性の高さが求められる締結に適用される。熱処理業者は加熱炉を持つため、焼嵌作業を依頼される場合もある。
→冷し嵌め
- 焼歪み
- 焼入れによって生じる形状変化。
→焼入変形
- 焼曲り
- 焼入れによって生じる平面の反り。
→焼入変形
- 焼むら
- 焼入れの際、局部的に硬化しない部分が現れること。質量効果により冷却の速い部分と遅い部分とで硬さの違いが出る場合や、部分的な酸化·脱炭等により軟点を生じる場合、偏析や異常組織によるものなど原因は様々あるが、いずれも機械的性質の部分的な低下を招く欠陥となる。
- 焼戻し
- 焼入れした鋼を変態点以下の適当な温度に再加熱する操作。構造用鋼の場合、マルテンサイトから炭化物を微細析出させ、強靭なソルバイト組織を得ることを目的とするので500〜600℃程度の比較的高温での焼戻しを行う。工具鋼の場合、硬さを保ったまま焼入れによる内部の変態応力を低減させることを目的とするので、必要以上に軟らかくはならないような温度を選択する。200℃以下の低温焼戻しであっても焼入れ時のストレスは半分程度にまで下がり、多少の硬さ低下はあるものの内部応力低減効果によって、かえって耐摩耗性は向上する。熱処理トラブルには焼戻しがしっかりとされていない (温度設定違い、焼戻し時間不足、工程忘れによる焼戻し処理そのものの未実施など) ことが要因となるものも多く、重要な工程となる。
- 焼戻硬化
- →二次硬化
- 焼戻色
- →テンパカラー
- 焼戻脆性
- 焼戻しの温度や冷却方法によって、靭性の低下が発生する現象。一般に、低温焼戻しよりも高温焼戻しの方が高靭性であるが、焼戻し温度と靭性は必ずしもリニアな関係とはならない。例えば構造用鋼を300℃で焼戻すと、200℃で焼戻した場合よりも靭性が劣る。
→低温焼戻脆性
→高温焼戻脆性
- 焼戻ソルバイト
- ソルバイトは調質によって得られる組織であるが、広義には焼ならし等で得られる微細パーライトを含む場合があり、これと区別する際の用語。
- 焼戻トルースタイト
- トルースタイトは焼入れ後400℃前後の焼戻しで得られる組織であるが、広義には焼ならし等で得られる微細パーライトを含む場合があり、これと区別する際の用語。
- 焼戻軟化
- 焼戻しによって硬さが低下する現象。一般には焼戻し温度が高いほど軟化するが、鋼種によっては高温焼戻しで硬さが上昇 (二次硬化) するものもある。
- 焼戻軟化抵抗
- 焼戻しによる軟化のしにくさを示す。数値的な定義はなく「焼戻軟化抵抗が高い」「焼戻軟化抵抗が大きい」など、相対的な比較で使用される。
- 焼戻パラメータ
- 焼戻温度は要求される性能によって、焼戻時間は製品サイズによってそれぞれ決まるものだが、焼戻時間に関しては計算された時間以上に加熱し続けても、処理品硬さに対する影響は見られない。ただし桁違いに長い時間加熱されれば、硬さの低下など焼戻温度が高い場合の結果に近付いて行く。つまり焼戻しにおいて長時間加熱の影響は非常に小さいものの完全に無視できるワケではなく、焼戻温度と焼戻時間とで構成されるP=T(C+log(t))の式から得られる値を焼戻パラメータと呼ぶ。Tは絶対温度、tは焼戻時間を示し、Cは鋼種によって決まる定数で、炭素鋼では18程度、合金鋼では20程度となる。焼戻パラメータが等しければ得られる硬さは同じとなるので、やや高めの温度で短い時間焼戻しを行えば処理時間短縮が可能となる。例えば合金鋼で本来520℃1時間の焼戻しを行うものを、加熱温度550℃とした場合は、約30分の処理で同等となる。ただしこれはかなりの荒ワザで、時間が短い分、均熱ができていない可能性が否定できない。小物の焼戻しや表面焼入れの焼戻し (内部はハナから加熱されておらず、焼戻しをする必要はない) などでは十分なトライと検証、時間管理の徹底の上で適用可能と言える。また大物部品 (内部は焼入れの効果が不十分で、焼戻し均熱の必要性が低い) の処理時間短縮にも有効。
- 焼戻マルテンサイト
- 焼入れによって得られる高炭素マルテンサイトから、低温焼戻しによってε炭化物を析出させることで正方晶から立方晶へと変化したマルテンサイト。硬さはやや低下する反面、内部応力の減少や靭性の回復などが見られる。焼入れでパンパンになった組織を、多少毒抜きしてやる印象。
- 焼戻割れ
- 焼戻し段階で発生する割れ。焼戻しは組織内ストレス軽減処理なので滅多なことでは発生しないが、高合金鋼の二次硬化を伴う焼戻し冷却時など、全くの無警戒で良いというものでもない。
- 焼割れ
- 焼入れトラブルの一つ。焼入れ時の変態応力により発生する割れ。低減のためには割れの起点となりやすい急激な形状変化をなくすなどの設計面からの対応と、焼入温度をできるだけ低く採り冷却速度を緩和するなどの熱処理面からの対応が考えられる。
- 焼割感受性
- 焼割れの起こりやすさ。例えばシャープエッジがあったり、肉厚の極端な変化があり、焼割れを起こしやすそうな処理品を「焼割感受性が高い」と表現する。
- 湯
- 溶鋼を表す鋳造現場用語。鋼以外の金属でも、溶けた状態のものを湯と呼ぶ。
- 有効硬化層
- 表面焼入れや浸炭焼入れにおいて、必要とする硬さを上回る表層部。
- 有効硬化層深さ
- 有効硬化層の最表面からの厚さ。求められる性能によって決まる値で、浅過ぎたり深過ぎたりすると、設計時の要求性能が得られないことになる。測定値は試料断面の硬さ分布測定により得られる。
- 有効浸炭深さ
- 浸炭焼入れに限定した有効硬化層深さ。
- 湯戻し
- 熱湯に漬けることで焼戻しの代用とする簡易焼戻し。100℃戻し。焼戻しは焼入れ後直ちに行うのが原則であるが、行程の都合でどうしても日をまたぐ場合などに本来の焼戻しができない代わりに行う仮戻し。あるいはサブゼロクラック防止策として行う場合もある。
- 油冷
- 油に浸漬して行う冷却。焼入れで多用される冷却方法。
- 溶鋼
- 溶解した鋼。鉄鋼材料は溶鋼の状態で成分調整などを行う。
- 溶体化処理
- 複数相の合金を加熱、冷却のサイクルにより単一相にする処理。アルミニウム合金などで時効処理前の準備段階として行われる。ステンレス鋼の固溶化熱処理と同義であり、処理内容、目的、順序などほぼ同じであるのだが、非鉄金属の分野ではなぜか違う用語を使う。つまりアルミニウム合金等における“溶体化処理→時効処理”での材料強化法は、析出硬化系ステンレス鋼の“固溶化熱処理→析出硬化処理”に対応する。
- 予熱
- 熱処理における目標温度 (最終加熱保持温度) に至るまでに、それ以下の温度で一定時間保持し段階的に加熱を進める均熱操作。処理品の内外温度差による熱応力の緩和、変態点をまたぐ際の内外組織の相違軽減、目標温度での保持時間短縮などの効果がある。特に大型の処理品、高合金で熱伝導度の悪い処理品、ソルト加熱など加熱効率の良好な熱処理などでは必須となる。溶接において割れなどのトラブルリスク軽減のために行われる事前加熱も同じく予熱と呼ばれる。
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- ラジアントチューブ
- 燃焼炉において、耐熱性のチューブ内で燃料を燃焼させ、チューブを通じて放射熱により炉内を加熱する部品。
- ラス状マルテンサイト
- ラス (lath) は塗壁の下地として薄い板を隙間を空けて取付けたもの。ラス状マルテンサイトは旧オーステナイト結晶粒中に一定の規則性を保ったパケットがあり、パケットは同じ方位のブロックの集まり、更にブロックはラスの集団という構成になっている。顕微鏡観察では非常に細かな針状の組織で、確かに下地材のようにも見える。構造用鋼などの焼入組織として観察される。針状マルテンサイト。
→レンズ状マルテンサイト
- 螺旋転位
- 金属結合のズレが、転位線を中心に結晶面を一周すると螺旋状に1原子直径分ずれた形状の転位。
- ラメラ間隔
- パーライトなどの層状組織における層間隔。“ラメラ (lamella)”はもともと生体組織の板状あるいは層状部分を示す単語。
- 理想臨界直径
- 鋼を焼入れする場合、冷却速度が理想的に無限大となる (処理品表面が一瞬で冷却剤温度と同じになる) 冷却剤に投入したと仮定した際の臨界直径。当然「あり得ない」数値ではあるが、冷却能に依存せずに焼入性を示す値として、種々の焼入特性を算出する際の根拠となる値。
- リムド鋼
- 比較的脱酸作用の弱いFeMn (フェロマンガン) などによる脱酸のみで造塊された鋼。鋼塊の断面が残留酸素に起因する気泡により縁取った (rimed) ように見えるためこのように呼ばれる。凝固の際、残った酸素が鋼中の炭素と反応してCOガスが発生し、溶鋼が沸騰するように見える (リミングアクション)。凝固による引けが少なくキルド鋼に見られる頂部空洞が発生しにくいので歩留まりが良い。鋼塊表面は純鉄に近く内部にはリミングアクションによって不純物が凝集する偏析が多いが、圧延により製品形状化されることで問題とはならない普通鋼 (一般構造用圧延鋼など) に利用される。使用量が多いため近年では造塊工程が連続鋳造法に置き換わりガスによる欠陥は減少している。造塊時に脱炭反応を利用するため原理的に高炭素鋼や炭素量管理が厳しい鋼は製造できない。
→キルド鋼
→セミキルド鋼
→キャップド鋼
- 粒界
- →結晶粒界
- 粒界腐食
- 結晶粒界を起点として進行する腐食。結晶自体が腐食に強くても結晶粒界は不純物の凝集やエネルギー順位の高さなど腐食に弱い条件が存在するウィークポイントとなりやすく、ステンレス鋼などで問題視される。オーステナイト系ステンレス鋼の場合、炭素 (ステンレス鋼では炭素量を抑えてはいるものの完全には除去できない) との親和力が高いCrが、温度上昇に伴いクロムカーバイドを形成し結晶粒界に析出する。鉄に固溶していたクロムが減少することでクロムカーバイド周辺に低Cr相 (クロム欠乏層) が生じて粒界が腐食されやすくなる。
- 粒界腐食割れ
- 粒界腐食の進行により脆くなった部分が割れてしまう現象。
- 粒界偏析
- 不純物が結晶から追い出されるようにして結晶粒界に偏析したもの。
- 粒状組織
- 微細炭化物が粒状析出したソルバイト組織。靭性が高く機械的性質に優れる。調質した炭素鋼で見られるが、顕微鏡観察で粒状を確認するにはかなりの高倍率が必要。
→層状組織
- 粒度番号
- →結晶粒度番号
- 臨界区域
- 焼入れにおけるAr’点以上のパーライト生成温度帯のこと。この範囲を速く冷さないと充分に焼きが入らないためこう呼ばれる。最高の焼入効果を得るにはこの区域をできる限り速く冷すのが有効。
→危険区域
- 臨界直径
- 鋼を焼入れした場合に中心部まで焼きが入る最大の直径を、与えられた冷却速度に対するその鋼の臨界直径と言い、焼入性の高い鋼ほど大きな値をとる。また同一鋼であれば冷却速度が速いほど臨界直径は大きくなり、冷却速度を理想化 (無限大の冷却速度を想定) した場合の臨界直径を理想臨界直径と言う。刃物のような工具、例えば包丁では、冷却の早い付根と先端部分が硬く中央部はやや軟らかいということは許されないので、全体的に硬くなる (中心部も含めて9割以上がマルテンサイト化する) ことが望まれるが、調質による結晶粒微細化が主目的である構造用鋼の焼入れでは中心部で50%がマルテンサイト化する最大径を臨界直径とするのが一般的。
- 臨界冷却速度
- →上部臨界冷却速度
- るつぼ
- 液状の溶解材を保持する器。金属製やセラミック製など、溶解温度によって使い分けられる。実験室的なイメージで、工業熱処理現場では余りお目見えしない。
- 冷間
- 再結晶温度以下の温度帯。通常は室温で外部からの加熱を行っていない状態を指す。
→熱間
- 冷間圧延
- 冷間で行われる圧延作業。
→熱間圧延
- 冷間加工
- 再結晶温度以下で行う塑性加工。通常は全く加熱をしない常温加工となる。析出硬化合金のように、再結晶以外にも温度によって組織変化がある金属では、その温度以下での塑性加工を指す場合もある。加工中に組織変化が進むため加工硬化を誘発する。高温による酸化がなく、表面状態は良好に仕上る。
→熱間加工
- 冷間ダイス鋼
- 冷間金型用鋼。冷間でのプレスやパンチを行う金型の部品材料となる。SKD11が代表的。
→熱間ダイス鋼
- 冷間鍛造
- 冷間で行われる鍛造作業。
→熱間鍛造
- 冷却剤
- 熱処理における製品冷却媒体。水、水溶液、油、空気、不活性ガス、溶融塩、溶融金属などが冷却剤として使われる。
- 冷却速度
- 単位時間当りの温度低下の速さを示したもの。焼入れのように急冷が必要な場合は冷却速度は速く、焼なましのように内部応力発生回避のためできるだけゆっくり冷やしたい場合は冷却速度を遅くする。冷却まで制御できる炉の場合、‘□□℃/sec’のような表現で冷却速度を設定する。ただし熱処理のJISを見ても「急冷」とか「除冷」のように、冷却の強烈さ程度で表現したものや、「油冷」とか「炉冷」のように、実際の冷却方法での表現に留まっていて、目的の熱処理に対しどの程度の冷却速度が適当なのかは判断できない。特に焼入れでは臨界冷却速度を把握しておき、これを上回る冷却速度を確保することが重要になる。
- 冷却能
- 鋼の焼入れにおける冷却剤の硬化能。焼入れでは急冷の程度によって硬さが変化し、対流開始が速いほど、また沸騰時の蒸気膜による断熱期間が短いほど冷却能が高い。当然ながら冷却剤によって変化し、水と油とでは水の方が冷却能は高い。また冷却時の温度によっても違い、例えば油の場合、水よりも粘っこく対流しにくいので、予め60〜120℃程度に保持 (成分によって保持温度は異なる) しておいたところに焼入れする。更に自然対流に頼るだけでなく、強制的に撹拌すれば冷却能は向上する。冷却能を定量的に表すものとしてH値が定義されている。
- レーザー焼入れ
- レーザー照射による加熱と母材吸熱による冷却で行う表面焼入れ。極小部分や溝底などの焼入れに応用できる。面の焼入れはビーム走査で対応するため、各パスの重複部分で焼戻軟化が生じるので、応力集中部での適用には注意を要する。
- レデブライト
- オーステナイトとセメンタイトの混合組織。当然ながら室温ではオーステナイトがパーライト化した状態で観察される。
- レンズ状マルテンサイト
- 顕微鏡で凸レンズの断面形状のように観察されるマルテンサイト。工具鋼などの焼入組織として観察される。‘レンズ’の大きさは旧オーステナイト結晶粒度に支配されるので、高炭素鋼を高温で長時間保持し、水冷すると観察が容易になる (靭性が低下するので工業製品としてはやっちゃダメ。当然ながら)。
→ラス状マルテンサイト
- 連続鋳造法
- 溶鋼を底のない鋳型に流し込み、冷えて押出された帯状の鋼を連続的に製造する方法。インゴットで造塊する方式に比べて鍛造比が大きく取れないものの、生産効率の良さ、歩留まりの良さ、電磁撹拌による偏析の少なさなどメリットも大きく、現在では流通量の多い鋼 (普通鋼) の大部分が連続鋳造によって生産されており、インゴットを圧延して作られるのは生産量の少ない特殊鋼のみとなっている。
- 連続炉
- コンベア移動などによりエリアごとで加熱や冷却などの処理内容が決まるタイプの炉。通常は入口から出口までが直線的な構成となる。同一仕様の大量生産品に向く。
→バッチ炉
- 連続冷却
- 等温保持を行わず、室温まで連続的に冷却すること。普通に冷却する様子を想像すればOK。
- 連続冷却変態曲線
- オーステナイト化した鋼を種々の冷却速度で焼入れ (連続冷却) した場合に、各種変態の開始や終了を線図で示したもの。縦軸に温度、横軸に時間 (対数目盛) を取る。等温変態曲線に比べパーライト変態開始位置はやや長時間側にずれ、また等温変態によって得られる組織 (ベイナイト) への変態は見られなくなる。CCT曲線。
- ロックウェル硬さ
- 硬いものほど押込みに対する抵抗が大きいことを利用した硬さ測定方法。測定対象に一定の荷重でダイヤモンド円錐圧子または鋼球圧子を押付け、押込み深さを硬さに換算する。比較的硬いものの測定に向いており、また目盛り直読で硬さ測定値が得られるので作業性が良く、焼入れ品の表面硬さ測定などに利用される。
- 炉冷
-
処理品を加熱炉に入れたまま炉ごと冷やす冷却方法。冷却速度が非常に遅く冷却時に処理品内部の温度差による内部応力が発生しにくいので、各種焼なまし時の冷却で利用される。徐冷。
- ワイヤーカット
- 放電加工の一種。加工液中で細径のワイヤ電極と工作物との間で放電させ製品輪郭にくり抜く加工方法。騒音が少ない上、ワイヤ断線時のリカバリ機能が備わっていることから、夜間無人運転を行うケースも多い。
- ワイヤー放電加工
- →ワイヤーカット
- 湾
- →ベイ
あ
か
さ
た
な
は
ま
や
らわ
他
▲ ページ先頭
-他-
- 15-5PH
- Cr15%、Ni5%、Cu4%の組成を持つ析出硬化系ステンレス鋼で、PHは析出硬化 (Precipitation Hardening) の略。JISには存在せず、AMS5659で規格化されている。
- 17-4PH
- Cr17%、Ni4%、Cu4%の組成を持つ析出硬化系ステンレス鋼で、PHは析出硬化 (Precipitation Hardening) の略。JISにはSUS630が規定されている。
- 17-7PH
- Cr17%、Ni7%、Al1%の組成を持つ析出硬化系ステンレス鋼で、PHは析出硬化 (Precipitation Hardening) の略。JISにはSUS631が規定されている。
- 18-8ステンレス
- 最も代表的なオーステナイト系ステンレス鋼の組成がCr約18%、Ni約8%である事から呼ばれる俗称。
- 300℃脆性
- 概ね300℃の焼戻しで脆化することに由来する低温焼戻脆性の別称。構造用鋼を強度部材として使用する場合にはタブー視される温度帯。
- 475℃脆性
- 低C高Cr鋼であるステンレス鋼を概ね400〜550℃に長時間保持後冷却することで現れる脆性。オーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼で問題となる。高温環境に置かれたステンレス鋼はこの温度範囲を急冷することで脆化を回避できるため、固溶化熱処理では400℃以下まで連続的に冷却する必要がある。
- 5元素
- →主要5元素
- A0点
- セメンタイトの磁気変態点。213℃。
- A1点
- 鋼の平衡状態における共析変態温度。炭素量によらず727℃となる。純鉄には存在しない。A1変態点、A1線とも。
- A2点
- α鉄の磁気変態点。780℃。実際には格子変態を伴わず、磁気性能の変化もある温度で急激に変わるのではなく、徐々に進行するため平衡状態図にこの名称は用いられず、研究者の名前からキュリー点と呼称されている。
- A3線
- 亜共析鋼の平衡状態におけるフェライト=オーステナイト変態温度を示し、炭素量によって変化する。純鉄では911℃、共析鋼では727℃となり、それぞれを結ぶ右下がりでやや下凸の曲線となる。
- A3点
- 亜共析鋼の平衡状態におけるフェライト=オーステナイト変態温度。炭素量が定ることにより温度が確定し‘点’と表現される。A3変態点とも。
→A3線
- Ac1点
- 平衡状態におけるA1点はヒステリシスを持ち、加熱時には高温側、冷却時には低温側にそれぞれ移動する。また加熱、冷却速度によって移動量が変化し、温度変化が激しいほど大きく振れる。そこで加熱におけるA1点 (通常より高い温度となる) であることを示す場合に「加熱」を示すchauffage (仏語) の頭文字を付加することで、実際の熱サイクルにおけるA1点を示したもの。温度保持のある通常の熱処理作業においてはそれほど問題にはならないが、温度変化の速い高周波焼入れや炎焼入れなどにおいてはAc1点が加熱温度の根拠となる。
- Ac3点
- 平衡状態におけるA3点はヒステリシスを持ち、加熱時には高温側、冷却時には低温側にそれぞれ移動する。また加熱、冷却速度によって移動量が変化し、温度変化が激しいほど大きく振れる。そこで加熱におけるA3点 (通常より高い温度となる) であることを示す場合に「加熱」を示すchauffage (仏語) の頭文字を付加することで、実際の熱サイクルにおけるA3点を示したもの。温度保持のある通常の熱処理作業においてはそれほど問題にはならないが、温度変化の速い高周波焼入れや炎焼入れなどにおいてはAc3点が加熱温度の根拠となる。
- Acm線
- 過共析鋼の平衡状態におけるセメンタイト=オーステナイト変態温度を示し、炭素量によって変化する。共析鋼では727℃、オーステナイトの炭素固溶限である2.14%C鋼では1147℃となり、それぞれを結ぶ右上がりでやや上凸の曲線となる。
- Acm点
- 過共析鋼の平衡状態におけるセメンタイト=オーステナイト変態温度。炭素量が定ることにより温度が確定し‘点’と表現される。Acm変態点とも。
→Acm線
- Ae1点
- A1点のこと。平衡状態での温度であることを明示するためにequilibriumの頭文字を付加する。
- Ae3点
- A3点のこと。平衡状態での温度であることを明示するためにequilibriumの頭文字を付加する。
- Ar1点
- 平衡状態におけるA1点はヒステリシスを持ち、加熱時には高温側、冷却時には低温側にそれぞれ移動する。また加熱、冷却速度によって移動量が変化し、温度変化が激しいほど大きく振れる。そこで冷却におけるA1点 (通常より低い温度となる) であることを示す場合に「冷却」を示すrefroidissement (仏語) の頭文字を付加することで、実際の熱サイクルにおけるA1点を示したもの。冷却速度が下部臨界冷却速度を超えるとAr’点とAr”点に移行する。
- Ar3点
- 平衡状態におけるA3点はヒステリシスを持ち、加熱時には高温側、冷却時には低温側にそれぞれ移動する。また加熱、冷却速度によって移動量が変化し、温度変化が激しいほど大きく振れる。そこで冷却におけるA3点 (通常より低い温度となる) であることを示す場合に「冷却」を示すrefroidissement (仏語) の頭文字を付加することで、実際の熱サイクルにおけるA3点を示したもの。冷却速度が下部臨界冷却速度を超えるとAr’点とAr”点に移行する。
- Ar’点
- 共析鋼での冷却時における変態の様子を処理品長さの変化で観察 (変態による体積変化が熱膨張と異なる動きをするので、非接触測長で読取ることができる) すると、冷却速度の上昇に伴ってAr1点は低温側に移り、二つの変化点を示すようになる。この内一つ目の変化点をAr’点、二つ目をAr”点と呼ぶ。Ar’点はAr1点が低温に移行したものでパーライト変態を起こすが、変態が完了しない間にも冷却は進み、Ar”点でマルテンサイト変態を起こす。その後は変態による膨張で、元の熱膨張曲線に戻ることはない。説明を簡単にするため、A3点やAcm点の存在しない共析鋼を例に取ったが、その他の鋼でも同様に、炭素量に応じた一定の冷却速度を超えるとAr”点が見られるようになる。Ar’点とAr”点の両方が現れる冷却速度は下部臨界冷却速度に、Ar’点が消滅してAr”点のみが現れる冷却速度は上部臨界冷却速度に相当する。
- Ar”点
- 共析鋼での冷却時における変態の様子を処理品長さの変化で観察 (変態による体積変化が熱膨張と異なる動きをするので、非接触測長で読取ることができる) すると、冷却速度の上昇に伴ってAr1点は低温側に移り、二つの変化点を示すようになる。この内一つ目の変化点をAr’点、二つ目をAr”点と呼ぶ。Ar”点はマルテンサイト変態を起していることを示し、平衡状態での変態点記号から派生したAr1点に基く用語から離れ、一般にはAr”点ではなくMs点と呼ばれる。Ar’点が消滅しAr”点のみが現れる (パーライト変態を起さずマルテンサイト変態のみが起る) 冷却速度を上部臨界冷却速度と呼ぶ。
- bcc
- 体心立方格子 (body-centered cubic lattice) の略。
- CCT曲線
- 連続冷却変態曲線 (continuous cooling transformation curve) の略。
- CD浸炭
- 炭化物形成を狙った高濃度浸炭で、炭化物分散浸炭 (carbide dispersion carburizing) の略。過剰浸炭となる領域にまで炭素濃度を高め、その後の熱処理によって炭化物を微細析出、球状化させて耐摩耗性を向上させる処理。Crなどの炭化物生成元素を含むCD浸炭に適した鋼種も開発されている。
- CVD
- 気相化学蒸着 (chemical vapor deposition) の略。減圧炉内で高温化学反応により、処理品表面に化合物被膜を析出させるコーティング法。工具の寿命向上に利用される高硬度被膜や、腐食環境での構造物に利用される耐食被膜などが実用されている。処理温度が1000℃程度と高く、製品の変形や結晶粒の粗大化に注意する必要がある。
→PVD
- C曲線
- 等温変態曲線の別名。線図において、ノーズ部分の形がアルファベットの‘C’に似ていることからこう呼ばれる。ただしノーズ、ベイ、Ms点までを結び‘S’に見立てて、S曲線と呼ぶのが主流。
- DLC
- diamond like carbonの略。耐摩耗性向上を狙った炭素皮膜コーティングで、ダイヤモンド程の強固な結晶構造 (俗に言うダイヤモンド結合) にまでは至らないためこのように呼ばれる。処理温度が概ね200℃程度と、他のコーティング処理に比べて低いため処理品の変形や寸法変化が少ないのも特徴の一つ。
- EDM
- 放電加工 (electric discharge machining) の略。
- ESD
- 超々ジュラルミン (extra super duralumin) の略。
- ESR法
- electro-slag remeltingの略。一旦インゴットとした材料を消耗電極とし、溶融スラグの電気抵抗熱によって再溶解して移動鋳型内で連続的に凝固させる清浄鋼製造法。スラグ内滴下中の脱硫作用により介在物が少なく、積層状凝固によって緻密で偏析の少ない鋼となり、また異方性が減少するなど多くのメリットがあるため、高級工具鋼の製造法として採用されている。
- fcc
- 面心立方格子 (face-centered cubic lattice) の略。
- GP帯
- →ギニエ·プレストン·ゾーン
- HAZ
- 熱影響部 (heat affected zone) の略。
- HB
- ブリネル硬さ試験による測定値であることを示す記号。
- hcp
- 稠密六方格子 (hexagonal close-packed lattice) の略。
- HN
- ヌープ硬さ試験による測定値であることを示す記号。
- HR
- ロックウェル硬さ試験による測定値であることを示す記号。使用する圧子や試験荷重によりHRC、HRAなどの記号が存在する。
- HRC
- ロックウェル硬さ試験のCスケールによる測定値であることを示す記号。ダイアモンド円錐圧子を初期荷重10kgfで押当て、試験荷重150kgfを負荷した後で除荷した際の圧子移動量 (圧子による永久変形量) から算出される。圧痕が小さく、目盛直読で測定が手軽なため硬さ試験では非常にポピュラー。
- HS
- ショア硬さ試験による測定値であることを示す記号。
- HSS
- 高速度工具鋼の略称。ドリルやエンドミルに刻印されているのをよく見かける。
- HV
- ビッカース硬さ試験による測定値であることを示す記号。試験荷重を併記する場合もある。
- Hカーブ
- →ジョミニー曲線
- H鋼
- 「焼入性を保障した構造用鋼鋼材」のことで、機械構造用合金鋼の多くに適用される。適正な熱処理を行った場合に、ジョミニー曲線がある一定範囲内に収まることを保障した鋼で、熱処理性能が重要視される部品に利用される。材質を示す記号の末尾に‘H’を付加することになっており、例えばSCM435のH鋼は‘SCM435H’と表記する。ところでジョミニー曲線は水冷 (噴水) によって得られる硬さ分布を示すものであり、機械構造用合金鋼はJISでは油冷で焼入れすることになっているのに「保障内容は水冷で」とは、いかがなものか。
- H値
- 冷却材の冷却能を示す数値で焼入強烈度、焼入急冷度などとも言う。H=α/2λ(α: 冷却材への熱伝達率 λ: 鋼材の熱伝導度) で定義され、数値が大きいほど冷却能が高い。λは冷却材によらず鋼種により一定なので、処理品表面から効率よく熱を奪ってくれる冷却材ほど冷却能が高いことになる。単位をinch-1とした場合、水ではこの値が1程度、油では0.3程度、空気で0.02程度となる。撹拌すればH値は上がり、水では2程度、油は1近くとなり、撹拌が強いほどH値は大きくなる。塩浴のH値は冷却剤の温度が高いにも関わらず「強烈に撹拌」した油冷に匹敵し冷却能が高いため、塩浴の保持温度までを速く冷却できる。ジョミニー噴水のH値は非常に高く2.5程度の値を取り、ジョミニー曲線はほぼ理想的な冷却による最高の硬さを示すと言える。油冷が一般的な工業熱処理において、ジョミニー曲線に沿うような硬さは期待できないのが現実と言ってもイイ (のか?)。
- H形鋼
- 断面形状がアルファベットの“H”の形をしている形鋼。構造部材として建物の鉄骨などに使われているのをよく見かける。略して「H鋼」と呼ぶ向きもあるが、同一用語 (しかも結構重要な言葉) もあるので、熱処理技術者は区別のために略さないようにしたい。
- Hバンド
- →焼入性バンド
- ISO
- 国際標準化機構 (International Organization for Standardization) の略。英語表記をそのまま略すと‘IOS’となるが、言語間の順序差を考慮して‘ISO’で統一されている。また国際標準化機構が定めた国際規格(IS:International Standard)もこの名称で呼ばれる。
- JIS
- 日本工業規格 (Japanese Industrial Standard) の略。
- Jカーブ
- →ジョミニー曲線
- LN2
- 液体窒素 (liquefied N2)。熱処理ではサブゼロ処理の冷源などで使用される。
- LNG
- 液化天然ガス (liquefied natural gas) の略。JISにはLNGタンクに使用される低温容器用鋼が規定されている。メタン (CH4) を主成分とし、都市ガスの主原料としてもお馴染みだが、熱処理事業においては雰囲気熱処理における雰囲気ガスの材料となる場合もある。
- LPG
- 液化プロパンガス (liquefied propane gas) の略。プロパンガスは雰囲気ガスの材料としてよく使われるので、熱処理工場では‘LPG’とペイントされたボンベを見掛けることもある。
- Mf点
- オーステナイトの冷却時にマルテンサイト変態が終わる温度。これ以降はどのように冷却してもマルテンサイト変態は進行しない。高炭素鋼や高合金鋼になるとMf点は室温以下となり、完全に冷め切ってもオーステナイトがマルテンサイトに変態し切らず、不安定なまま残留オーステナイトとして残る。残留オーステナイトは様々な経時トラブル (置割れや置狂い) の元凶とされ、一般には歓迎されない。
- Ms点
- オーステナイトの冷却時にマルテンサイト変態が始まる温度。A1点やA3点などは加熱速度や冷却速度によって変化するが、Ms点は組成のみによって決まる。炭素鋼の焼入れではMs点までを早く、それ以降はゆっくりと冷却することが「硬く、割れず」のために有効で、炭素量によるMs点の変化を把握しておくことは、焼割れ防止に有効となる。炭素量が多いほどMs点は低温側にシフトし、合金元素もMs点の変化に影響を与える。
- PMハイス
- →粉末ハイス
- PVD
- 気相物理蒸着 (physical vapor deposition) の略。蒸発させたコーティング材を処理品表面に蒸着し被膜を形成させる。CVDが処理品表面に“化学的に”密着しているイメージなのに対し、“物理的に”乗っかっているだけ、と表現されるとやや弱い印象を受けるが、用途に応じた処理を行えば非常に有効。処理温度が500℃程度となる場合が多く、熱処理品にPVDを施す場合は予め高温焼戻しを行う必要がある。
→CVD
- SI単位
- 国際単位系。語源はLe Système International d’Unités (仏語)。MKS単位系の拡張でm (メートル⁄長さ)、kg (キログラム⁄質量)、s (秒 [second] ⁄時間)、A (アンペア⁄電流)、K (ケルビン⁄温度)、mol (モル⁄物質量)、cd (カンデラ⁄光度)を基本単位として、あらゆる単位を一元的に扱うよう制定されている。全世界で同じ普遍単位を使用することで、商取引などにおける国家間での相違を解消できる。日本では1992年から完全移行しているが、機械分野でのインチネジなどはSI単位以前の名残として未だ完全に消え去ってはいない。材料分野では力の単位がkgfからN (ニュートン) に変更されたため、引張強さの保障値を名称に含む材料でSS41からSS400に変更されるなどの対応がなされた。
- S-N曲線
- 材料の疲労特性を示す線図。疲労曲線。縦軸を応力 (S)、横軸を繰返し回数 (N)として疲労破壊したポイントをプロットすると、当然ながら高荷重であるほど少ない回数で破壊するので右下がりの曲線となるが、負荷応力が下がってくると回数が増えてもナカナカ破壊しなくなって線が水平となり、事実上疲労破壊しなくなる。このような荷重を疲労限と言い、疲労破壊が問題となる機械要素における設計基準となる。鋼では概ね107回以上の繰返し荷重でも破壊しない荷重を疲労限とする。研究者名よりウェーラー曲線とも呼ばれる。
- S曲線
- 等温変態曲線の別名。線図の形がアルファベットの‘S’に似ていることからこう呼ばれる。
- TiC
- いわゆるチタンコーティングの一種。CVD処理により処理品表面を非常に硬いチタン炭化物 (3000HV以上) で覆い、耐摩耗性の向上やカジリの低減によって工具寿命を延すことができる。ハイテンやステンレス鋼板の成形プレス金型での利用例が多い。現場では「タイシー」と読む。
- TiCN
- いわゆるチタンコーティングの一種。CVD処理やPVD処理により処理品表面を非常に硬いチタン炭窒化物 (2500HV以上) で覆い、耐摩耗性や耐熱性に優れた表面とすることで工具寿命を延すことができる。現場では「タイシーエヌ」と読む。
- TiN
- いわゆるチタンコーティングの一種。CVD処理やPVD処理により処理品表面を非常に硬いチタン窒化物 (2000HV以上) で覆い、耐摩耗性や耐食性の向上によって工具寿命を延すことができる。現場では「タイエヌ」と読む。
- TTT曲線
- 等温変態曲線 (time-temperature transformation curve) の略
- U曲線
- 焼入れ処理品の断面硬さ分布が表面で高く芯部は低いため、これをグラフ化したものがアルファベットの‘U’のような形状となることからこう呼ばれる。焼入性の良い鋼材ほど曲線がフラットに近付く。
- WEDM
- ワイヤー放電加工 (wire-EDM) の略。
- WPC
- wide peening cleaningの略。ショットピーニングのショット材を微粉末にしたもの。ショット材を小さくすることで、同じ運動エネルギでも噴射速度を上げることが可能となり、処理品表面衝突時の温度上昇が大きくなる。これにより表面のマルテンサイト化や結晶粒の微細化が促進され、現有ブラスト設備の流用であっても大きな表面硬化を得ることができる。ただしショット材質量が小さいため、硬化範囲は非常に小さく、最表面のミクロンオーダーに留まる。つまりナマ材にWPCを施しても効果は少ない (硬さの差が狭い範囲で急激に変化し、‘緩衝材’に当たる部分がないため剥離などでダメになる) が、例えば調質した構造用鋼を表面硬化熱処理し、最表面をWPCで更に強化するといった複合処理で「表面に行くほど硬く」する工程を確立すれば、限定的用途における超高性能部品を製造することが可能となり得る。
- X線回折法
- X線照射時の回折パターンによる構造解析手法。結晶構造解析や格子欠陥探索、結晶粒度測定など様々な応用がされている。工業熱処理分野では焼割れ (特に内部割れ) の探傷で利用される。
- α鉄
- 亜共析鋼ではA3線以下、過共析鋼ではA1点以下で存在し体心立方格子を成す鉄の同素体の一つ。炭素を固溶したα鉄をフェライトと呼ぶ。
- β鉄
- A2点以上でA3点以下、すなわち磁気変態を起したα鉄をこう呼んだが、磁気変態が同素変態ではないことにより削除された。
- γR
- 残留オーステナイトを示す記号。
- γ鉄
- A1点以上で存在し面心立方格子を成す鉄の同素体の一つ。炭素を固溶したγ鉄をオーステナイトと呼ぶ。
- δ鉄
- 純鉄の場合1392℃から1536℃の間で見られ、体心立方格子を成す鉄の同素体の一つであり、更に高温になると液相に変態する。δ鉄固溶体をδフェライトと呼ぶ場合もある (同様に体心立方格子であるためか?)。ここまで高温の同素変態は熱処理では殆ど縁がない。
- ε炭化物
- 低温焼戻しで析出する中間的な炭化物。Fe2-3Cで表され、六方晶を成す。
- σ脆化
- ステンレス鋼を高温に曝すとσ相と呼ばれる金属間化合物が析出し脆くなる現象。
- σ相
- 高Cr鋼 (ステンレス鋼) において、600〜800℃の温度範囲で結晶粒界に析出するFe-Cr化合物。脆化の原因となるため、このような温度での長時間加熱や徐冷は避ける必要がある。
あ
か
さ
た
な
は
ま
や
らわ
他
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